「求人の裏には未来の患者がいる」。医療キャリア事業責任者に聞く事業の重要性とプロダクト開発の展望

こんにちは、プロダクト開発部人事のふかしろ(@fkc_hr)です。先日、医療キャリア事業に携わる開発組織についてのページを公開し、ブログでも紹介しました。こちらの記事および採用情報サイトのページでは、開発組織からの視点で医療キャリア事業について説明しています。

今回は、医療キャリア事業の事業責任者を務める山本健さんに事業の詳細や、開発組織との関わりについて伺いました。ぜひ最後までお読みください!

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はじめに

エス・エム・エスで医療キャリア領域の事業責任者を務めている山本です。製造業のベンチャー企業や結婚式場の運営会社で働いたあと、「残りの仕事人生は自分の興味のあるヘルスケアの領域で勝負しよう!」と考え、2012年にエス・エム・エスに入社しました。

この記事を読んでいるのはエンジニアの方が多いと思いますが、エンジニアの皆さんにも私たちのやっている事業の重要性や面白さが伝わるようにお話しできればと思います。よろしくお願いします。

医療キャリア事業について

なぜこの事業が必要なのか

弊社のキャリア事業では、「医療・介護従事者の不足と偏在を解消し、質の高い医療・介護サービスの継続提供に貢献する」をミッションに掲げており、医療キャリア事業はその中の医療従事者向けの領域として、様々な医療従事者向けの人材紹介サービスを運営しています。

エンジニア採用サイトの内容とも重複しますが、改めてこの医療キャリア事業の目的を説明しましょう。私たちの事業は、求人を出す医療機関と、求職者である看護師などの医療従事者との間を取り持つことで成り立っています。

一方の当事者である医療機関の直接の課題が人材の確保であることは当然ですが、医療機関というのは地域の医療を支える存在ですから、医療機関の人材の需要というのは地域医療の人材の需要であり、その背後には地域の患者の医療サービスへの需要があります。「求人の裏には未来の患者がいる」のです。地域の患者の需要は一定ではなく、変化するものです。これは需要が全体として増減するだけでなく、複数の医療の機能(病院、クリニック、訪問看護、介護施設など)の間での需要の移動もありますし、地域の間での需要の移動もあります。したがって、患者が必要とする医療が変化するのに対応して、人材の移動を促していくことが地域医療を支えるためには必要になります。

もう一方の当事者である医療従事者については、それぞれの人がその人らしく医療従事者として働き続けられるようなキャリアの選択肢を提案し、可能性を広げることを支援することが私たちの事業の課題になります。これはもちろん本人のキャリアのためでもありますし、資格やスキル、経験を持っている方に長く働いてもらって労働参加率を高めることはやはり地域医療のためにも重要なことです。

地域医療・医療機関について

医療機関の事情についてもう少し詳しくお話ししましょう。改めて言うまでもなく、高齢化の進行は医療においても大きな課題を生み出しています。高齢化が進めば医療への需要が増加しますから、その需要に応えるだけの医療機関の生産性の向上は重要な課題です。ベッドの回転率や平均在院日数を改善するためには、スタッフの充実が欠かせません。2006年の診療報酬改定で導入された7対1看護の基準も、このような高齢化社会の課題への対応の先駆的なもので、この時期から医療の領域における有料の人材紹介サービスというものもビジネスとして求められるようになってきたのです。

医療機関としては、人材を確保するため、本来であれば求職者に向けて自分たちの働く場としての魅力を発信していきたいわけですが、多忙な医療機関が自らそれを行うのは大きな負担になります。そのため、私たちのような人材紹介サービスが代わりに母集団形成や一次スクリーニングの部分を担う余地があるわけです。これは単にビジネスチャンスであるというだけでなく、大きな社会的責任を伴うものだと考えています。医療機関のニーズにマッチしている求職者の方を適切に面接にまでお連れすることが、多忙な医療機関の負担を減らし、ひいては地域医療に貢献することになるわけです。そのためには、職場としての医療機関の状況、そこで求められる人材像に深い理解を持ったキャリアパートナー(転職・採用支援担当)の存在が重要です。このような専門性の高いサービスを届けられる存在になるために、医療現場で臨床経験を積んだ医療従事者のキャリアパートナーが全国に100名以上在籍しています*1。こうした医療従事者のキャリアパートナーが果たしている役割については、2024年3月に発表した以下のプレスリリースでもご紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

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求職者について

求職者である医療従事者についても補足します。この業界では、高校生の時点でキャリア選択をしている人が多いことが特徴です。医療従事者としてのキャリアを選択する理由はもちろん人それぞれですが、看護師資格のような国家資格を取るためにたくさん勉強をして医療業界に入ってきます。多くの人は、せっかく得た資格とスキルを活用して、目の前の患者に適切な医療処置をしたい、患者に寄り添って良い看護サービスを届けたいと思って仕事をされていると思います。しかし、職場や家庭でのちょっとしたボタンの掛け違いで、今の職場だと自分らしく、患者に寄り添って働き続けられない、となってしまう人も多いです。患者中心ではなく医療機関中心の医療に違和感を覚えてしまったり、プライベートとの折り合いが付かなくなってしまったり、ですね。特に若手の方は、最初に働き始めた医療機関で上司との関係が悪くなって働き続けられなくなってしまうということもしばしば見られます。

そういう状況に陥ってしまったときに、もちろん別の業界に転職することも大切な選択肢の一つですが、せっかく努力してきて、医療という仕事に対する思いも持っているのに、業界を去るしかなくなってしまうのは、とても勿体ないことです。私たちとしては、そういった状況に追い込まれたとき、いや追い込まれる前の段階で、「今の職場以外にも医療業界で働き続ける選択肢は常にある」という状態をインフラとして用意することがそれぞれの人の人生にとって大事なことなのではないかと考えています。

今後のプロダクト開発で実現したいこと

私たちが医療キャリア事業を通じて解決したい課題や果たしたい役割をお分かりいただけたでしょうか。ここからは、以上のような背景を踏まえて、プロダクトの開発を通じて実現したいことをより具体的にお話ししましょう。

医療機関にとって人材確保が重要な課題で、私たちのような有料人材紹介サービスはそれを一部肩代わりしているという話をしました。私たちのサービスの従来の建て付けは、医療機関から求人が出てきたときに、そこに対して求職者をなるべくたくさん集めよう、という形になっていました。しかし、これでは他のサービスとの差別化は困難です。広告やメールマガジンなどを活用して応募者を獲得すれば成長する、というのはある程度まではそうですが、広告宣伝費をたくさん使ったところが勝つというマーケットとして扱ってしまっては早晩頭打ちになります。これまでとは違う考え方でサービス運営をする必要があります。

広告宣伝費勝負にならないためには、お客様である求職者に「このサービスがいい」と思って選んで使ってもらえるようにすることが必要です。「お客様が私たちを選ぶ理由」を作る必要があります。CM等で認知を取るのは一時的には有効ですが、使ってみてもらったあとに「他と変わらないね」となってしまっては元の木阿弥です。そうではなく、使ってもらえばわかる「私たちを選ぶ理由」を作った上で、認知施策を打って使ってもらうのです。この「私たちを選ぶ理由」こそ、プロダクトの魅力ということになります。

こういった考え方から、まずは顧客接点のさまざまなところを、お客様の体験にとって望ましい形になっているか点検していっているところです。顧客接点となるのは、Webサービスとしてのユーザーインタフェースに加え、電話や対面、メールなどの人が関わる部分など多様です。キャリア事業というのはITだけで完結するものではなく、生身の人が介在する場面が出てくるわけですが、人とITとが一体化した、顧客体験のよいプロダクトにしたいのです。

顧客体験ということを考えたときに大事なのは、医療キャリア事業が対象としている職種の多様性があります。それぞれの職種にはそれぞれ固有の専門性があるので、求職者向けの体験としては職種ごとに独自のものを追求したいという側面があります。一方で、医療機関の立場に立ってみると、1つの医療機関が様々な職種の方を採用しようとするので、医療機関向けの体験としては職種を横断して扱えるようになっていた方が望ましいです。また、どの職種にも適用可能な裏側の仕組みというものもあります。現状は、職種ごとにバラバラにプロダクトが構築されてきているため、本来は1つのものに蓄積されていくべき情報がバラバラになってしまっていたり、仕組みが別々になってしまっていたりします。こうした点をシステムの内部構造含めて改善していきたいというのが実現したいことの一つです。技術者の視点からも「こうあるべき」というものを提示して、リードしてもらいたいと考えています。

プロダクト開発組織に期待したいこと

この記事を読んでくださっているのはプロダクト開発職の方が多いと思うので、プロダクト開発の話をもう少ししましょう。

プロダクト開発組織の人たちとの関係の変化

私はエス・エム・エスに入社してからもう10年以上経っているのですが、入社当初はプロダクト開発組織の方々とはあまりしっかり話ができていませんでした。

以前は、開発組織と事業側との関係が密でなく、事業側から刹那刹那で断片的な情報だけで「こういうのが作りたい」「こういう機能が欲しい」と開発組織に依頼するというのを繰り返してきました。開発組織の方々との良い関わり方がわからず、理由などをあまり伝えずに作りたいものだけを伝えていたんです。前回依頼して作ってもらったものと今回依頼しているものとの間に一貫性がない、ということしばしばで、プロダクトとしての明確な方向性もない状態でした。

しかし、数年前に技術責任者の田辺さんがキャリア事業にも関わるようになってから、「プロダクト開発の人たちも事業の前提や根幹を理解した上でより良いサービスづくりをしたいんだな」という印象を持つようになりました。そして昨年、リーダーとして鈴木健二さんが参画されてからは、実際に「どういうふうにしたいから、今これを作るんだ」といった会話ができるようになってきました。今は開発もオーナーシップを持ってくれていると確信できているので、細部をどういうふうに作っていきたいかなどは信頼して任せられるようになっています。スケジュールなどについても、事業側が一方的に納期を設定して急かすということもなく、相談しながら進めています。

ものづくりはものづくりの人にリードしてほしい

先ほどプロダクトの顧客体験のところでもお話ししましたが、プロダクトがどうあるべきかという点については、技術者の方にぜひリードしてもらいたいと考えています。ソフトウェアの内部の設計についてはもちろんですが、顧客にとって利便性の高いサービスの設計という観点でもエンジニアとしての知見を活かしてもらいたいです。

個人的な話になりますが、私はエス・エム・エスに入社する前に製造業の会社にいたことがあります。私は自動車の開発プロセスに関わっていたのですが、その時に出会った自動車のプロダクトマネージャーは、エンジニア出身の方ばかりでした。おそらく1台3万点の部品で構成される自動車というプロダクトの複雑さゆえという側面もあったとは思いますが、エンジニアがビジネスと顧客についての知見を習得してプロダクトマネージャーになっていることで、売れて儲かる自動車作りができていたと感じています。当社の複数職種の人材マッチングビジネスを支えるITシステムも複雑な要件が多いと思っており、その複雑な要件を実現するためのアーキテクチャを決める能力のあるエンジニアが(ビジネスや顧客についての理解を身につけた上で)プロダクト作りをリードした方がよいと考えています。

そのような関係性を実現するためにも、エンジニアのリーダーには関わる事業の週次進捗に主体的に参加してもらうなど、社会や顧客からの要請・競合環境・それに対する自社の取り組みの変化の文脈をタイムリーに理解できる環境作りを心がけています。

エンジニアの皆さんへのメッセージ

私は趣味でヨットを長年やっているのですが、同じヨットに乗っている人たちは運命共同体で、各々が別の役割を持ちつつも、皆で支え合いながら安全に航海しゴールに辿り着かなければなりません。会社もこれに似ていて、立場や職種が違ったとしても、互いに尊重しながら、運命共同体として協働し、同じビジョンに向かって進んでいくことが大切だと思っています。

当社の事業に興味関心があり、エンジニアの立場でこの社会課題の解決に共に挑みたいと思って頂ける方と出会えたら嬉しいです。

(終)