はじめまして。株式会社エス・エム・エスで介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」のQA組織の運営をしている星と申します。2020年1月に入社し、チーム活動やQA組織づくりを通じて体制強化を進めています。
本記事ではこれまで行ってきたQA組織強化に対しての状況アップデートと、それに付随して行動指針や大切にしていきたいものを言語化するまでの過程をまとめています。
他ロールのメンバーも弊社テックブログにチームとしての価値観を紹介する記事を投稿していますが、QA組織としてカイポケ含め、エス・エム・エスのサービスと開発組織をどう捉えているか、その中でどういった思いを大切にして品質に対して向き合っていこうと考えているのかを記事にしています。
QAエンジニアの方のみでなく、チームで品質を作り込んでいくことに興味がある方は是非ご一読頂けると嬉しいです。
QA組織のこれまでと現状
以前、弊社テックブログにQA組織として過去と未来についての話を投稿しましたが、私が入社した2020年も引き続き、記載されているようなQAプロセスの浸透、メンバーのアサインや検証に対する各施策の細かい実行、小さな改善を積み重ねていくことで体制強化を図っていました。
弊社は複数のチームに分かれて開発を進めておりますが、私もカイポケの1チームを主軸にjoinして、実作業に深く携わりながらプロセスを意識した日々の品質活動や実際の検証業務を行っておりました。
QA含む開発チームからの協力の中で、改善活動やコミュニケーションを積み重ねてきましたが、その活動を経てカイポケや弊社の事業を取り巻く環境や特性の解像度を上げていくことが出来たと実感しています。入社から3年が経ち、チーム横断の開発時の検証や介護報酬改定という大きなイベントも経験しました。
その中で、エス・エム・エスとして取り扱っているサービスがもっているミッションの解像度の高まりもあり、各チームで取り組む品質の担保・向上のためのテストプロセスに柔軟性を持たせて、進めていくことの重要性を感じ、改めてQA組織としての行動指針を言語化していきたいと考えるようになりました。
こういった考えにシフトしたのは、取り組んできた以下の課題について、一定先が見通せる状態になってきたという背景があります。
- QAプロセスの安定化
- 各チームにて一連のテストプロセス浸透が進められている。
- 目的に即した形かつリスクを念頭に置いた状態で、対応内容ごとにプロセスの要不要判断をチームで議論する土壌も出来つつある。
- 各チームにて一連のテストプロセス浸透が進められている。
- QAチームの品質活動の定常化
- リリースに向けた検証対応以外の品質活動を各チームで考え、進められる状態になった。
- E2Eテストの自動化や属人化を防ぐ活動、QAメンバー以外との連携を各チームで検討しながら進められている状態。
- リリースに向けた検証対応以外の品質活動を各チームで考え、進められる状態になった。
このような各メンバーによる小さな課題解決の積み重ね、育成や採用での体制強化の結果があり、前述の思考へ舵が切れる状況になったということが大きいと感じています。
QA組織から見たカイポケや開発組織について
前提として、私含めたQA組織が弊社のサービスや開発組織をどういう視点で捉えているか触れておきます。
エス・エム・エスは医療・介護・ヘルスケア・シニアライフの4つの領域で高齢社会の情報インフラ構築をミッションとしている会社です。エス・エム・エスが行っている事業を取り巻く環境の変化は激しく、極めて不確実性や複雑性が高いものを取り扱っているという認識を持っています。介護業界も例に漏れず変化が激しい業界ですし、3年に1度の介護報酬改定という大きなイベントも定期的にあります。
そのため、QA組織を含む開発組織としてのフェーズの変化に加えて、市場やニーズの変化に対応していくべく、QA組織としての考え方を継続的にアップデートしていく必要があると考えています。
その他の背景としてはカイポケリニューアルの始動と開発組織のバリュー言語化があります。 リニューアルプロジェクトは、従来のカイポケの追加開発・制度対応のプロジェクトとは性質が様々な点で異なるため、QAチームとしてもその性質に適応した活動をしていく必要性を感じています。
また、これまでQA組織の価値観の言語化は独立して行われてきましたが、今回開発組織全体のバリューの言語化が始まったことで、QA組織の価値観の言語化を開発組織全体の価値観と整合性の取れる形で行う良いタイミングだと考えました。
リニューアルプロジェクトについては、EMの酒井さんの記事を、
開発組織のバリューの言語化については、技術責任者の田辺さんの記事をそれぞれご覧ください。
QA組織の行動指針検討の過程
始めに、行動指針の検討とQA組織が大切にしているものを言語化していくにあたり、大事にしたかったポイントを書きます。
- エス・エム・エスのサービスの特性、組織として持っているミッションと開発スタイルを踏まえて言語化し、貢献に繋げたい。
- あくまでも大切にしたい価値観、考え方の指標にする。これをベースに各チームでも落とし込みや最適化が出来るようにしたい。
- QAエンジニアとして楽しみながらチャレンジができるものにしたい。
- 適宜見直すことを前提に、なるべくシンプルかつ目的にピンポイントな言語化をしたい。
行動指針を定義していくにあたり、次に挙げる3つの要素の読み解きと洗い出しから言語化を進め、それをベースとして検討をしていきました。
QA組織の行動指針検討に用いた要素
☆エス・エム・エスの「サービスの特性や開発スタイル」の読み解き
前述の「カイポケの特性」や弊社の開発スタイル、開発組織全体のチームバリューを読み解いて可視化していきました。その中でQA組織がどう貢献していけるか、どう貢献していきたいかを議論していきました。
☆「アジャイルテストの10の原則」の読み解き、活動とのリンクづけ
活動や日々の仕事において大事にしたい点として、『Agile Testing Condensed』にもある「アジャイルテストの10の原則」の考え方があり、上述のサービスや開発組織の特性、取り組んでいきたい活動をテストマニフェスト*1と掛け合わせた形での可視化を進めようと考えました。
☆QA組織として「取り組んできたこと、やっていきたい品質施策」の洗い出し
現状のQA組織と各開発チームの品質に関わる取り組み、継続してやっていきたい取り組みを洗い出しました。新規で取り組んでいきたいことだけでなく、「QA組織として過去と未来についての話」でも記載があったE2Eテストの自動化であったり、連続性がある検証といった要素も継続取り組みとしてピックアップしています。
QA組織の行動指針言語化
これらの要素を踏まえた検討を繰り返し、大きく3つの行動指針へ落とし込んでいきました。
行動指針と実際の動きのイメージを結び付けやすくするため、一例としてユーザーストーリーマッピングや探索的テストといった形で具体的な活動ともリンクさせて言語化しています。
☆継続的テスト
リリースを含めたプロセスの最適化(高速化や安定化含む)を目的とし、一連の開発プロセスを通じた改善に向けた前倒しテスト、フィードバックのサイクルをまわしていく活動が重要と捉えています。
これによって、不確実性が高い業界のサービスであるという特性に対し、品質のキープと向上を見据えつつも、状況に応じて最適なプロセスにチューニングするといったアプローチをとれるようにしていきたいという思いがあります。
☆価値に対するテスト
ユーザーの課題感や実際の業務プロセスを理解し、最優先に考え続け、それを品質活動にも適宜取り入れていくことを大切にしていきたいと考えています。
前述の通り、社会の変化に対して貢献していくことが大きな価値になるサービスであると捉えています。そこに向けて大切にしていきたい価値観となっています。
☆チームで品質保証
各ロールの専門性を持ち、協働して開発を進めることで、難解な制度にも安定した品質で対応していけるように進めたいと考えています。
複雑性が高い業界のサービスであるという点を特に考慮し、PdMやエンジニア、ドメイン知識に秀でたメンバー含め、チーム全員で取り組んでいく意識を持つことを言語化しています。
行動指針のひとつとして「価値に対するテスト」を掲げていますが、前述の市場の変化や定期的な報酬改定を踏まえて、ユーザーが継続して当たり前の業務プロセスを通せるかということも大きな「価値」となると考えています。 そのため、新しく生み出していく価値の品質にフォーカスするだけでなく、E2Eリグレッションテストを駆使し、既存の価値も担保し続けるという意思は変わらず強くあります。
弊社のQA組織としては既に根付いている価値観ではあるため、行動指針としての定義や言語化、アクションとしてあえての記載はしていないですが、取り扱っているサービスの特性上、ここも非常に大事なポイントと捉えているということを補足しておきます。
完成したものについて社内公開や共有を進め、今後も引き続き活動への落とし込みとブラッシュアップをしていきたいと考えています。
行動指針をベースに取り組んでいる活動の一例
今回言語化した価値観をベースにして、既に各アプリチーム内でQAチームが関わっている活動、主導して進めている活動がいくつかあります。
☆実例マッピング
早期の開発内容理解、テストスコープの共通認識化でテスト分析や設計のスピード向上、ふるまい上で気にしているポイントをフィードバックすることでの手戻りやリスク低減をメイン目的として取り組んでいます。進め方自体もチーム内で振り返りをおこない、随時精度を上げている現状です。
☆業務フローの理解と顧客価値を踏まえたテスト戦略の定義
リリースや機能開発ごとの提供価値の読み解きから、テストレベルの最適化やテスト分析、テストカバレッジの共通認識化といったチーム内での価値共有をメイン目的としています。複数アプリチームで活動していることから、横断的な視点も必要になってくるため、引き続き精度を上げるように日々開発しているものの価値を考え続けています。
☆開発者とのテスト最適化検討
複雑なシステムに対して、チームで品質担保をしていく足がかりとして取り組んでいる施策です。エンジニアとQAでお互いがやっているテストをより深く知っていくことで、チームで担当している機能に対しての共通認識化、該当箇所の開発対応の難易度すり合わせとしても活用していけると考えています。
☆E2Eテスト自動化
引き続き、E2Eテスト自動化に対しての施策を重点的に進めています。以前はテスト戦略の策定や設計、実装面での課題も多くありましたが、今ではリグレッションテストとしての運用やプロセスへの組み込みも進められています。今後も活用シーンが更に増えてくることを見込んでおり、運用/保守の検討にも力を入れていっています。
取り組みの詳細や効果については改めてテックブログ内でも公開したいと考えていますが、まずは一例として紹介しました。
前述の通り、カイポケ開発は複数チームに分かれて運用しており、それぞれがもつ担当アプリの特性やチーム状況等も踏まえ、各チームで最適な施策を模索し、取り組み活動と改善のサイクルを回しています。 その中で、今回言語化に至った「大切にしていきたい価値観」をベースに品質への活動も考え、取り組みを続けてきている組織だということを、言語化を通して再認識することもできました。
これからのQA組織
エス・エム・エスの開発組織には、ユーザーに対しての価値を考え続け、作り込み、継続的に提供していく思いが強いメンバーが多く在籍しています。
開発組織のチームバリューにもある通り、変化し続ける課題に対しての動き含めて、柔軟性と目的をもった品質活動を定義してチャレンジしていける組織だと思っていますし、それに対して技術責任者、エンジニアリングマネージャー、他ロールの方々からの協力を沢山もらえる環境です。
もう1点、今回公開した行動指針やそれに伴う活動については、落とし込みも含め、見直せる点や精度を上げていける点が非常に多く、取り組みとしてもこれから積極的にチャレンジしていきたいものを含んでいます。 例えばユーザー理解から、それを検証や品質活動としてフィードバックしていくことに対しても、まだまだ沢山の取り組めることがあると思っています。
QA組織としてもまだまだ多くのチャレンジやキャリアアップが出来る環境であると思っていますし、「過去と未来についての話」にも記載している通り、将来的には「サービスを運営する上で全ての品質に関わっていきたい」という思いは継続してあります。 そして、それを実現するための仲間もまだ足りない状況です。
今回ご紹介させていただいた、QA組織として大切にしていきたいと思っている価値観に興味を持ってもらえた方がいらっしゃれば、是非お気軽にご連絡ください!
*1:参考: 「【翻訳記事】テストに対する考え方「Testing Manifesto」 - ブロッコリーのブログ」https://nihonbuson.hatenadiary.jp/entry/TestingManifesto 2023年10月12日閲覧