80人超のエンジニア組織で、6つのチームバリューを言語化しはじめた話

0. 本記事の位置付け

エス・エム・エスは2003年の設立以降『永続する企業グループとして成長し続け、社会に貢献し続ける』を経営理念に、高齢社会の課題解決に向け複数の事業を展開してきました。 プロダクト開発組織は2015年から本格的な内製化を進め、今では80人超の組織となっています。このプロダクト開発組織では、どんな文化・価値観を大切にしチームづくりを行っているのか。

本記事では、2023年2月7日・3月22日に社内で行われた技術責任者 田辺による『プロダクト開発組織のバリュー説明会』の内容を、一部当日の資料を引用しながら文字起こし形式で紹介しています。

(※本記事の内容は、エス・エム・エスとして定義しているバリューそのものではなく、現時点でのプロダクト開発組織向けに解釈し、落とし込んだ内容となっています。)

1. バリューのつくり方・考え方

まずはじめに、バリュー制定の背景にあるバリューのつくり方・考え方について解説します。

当社のプロダクト開発組織のバリューを考えるにあたって「メルカリ・小泉社長による『 1→100の組織設計を丸裸にする』人事組織(HR)勉強会の備忘録」の内容を参考にさせていただきました。

特に、”Plan(設計時に大切にしていること)「ビジネスゴールや市場特性とバリューが紐付いていることが大切」” という箇所に記載されている「バリューは経営陣の経験や思いで定めるのではなく、ミッションや事業特性で決めるべき」という点を意識し、当社の向き合うマーケットや事業特性を考慮した上でバリューを定めています。

The Pyramid Azit Inc. CEO & Designer―ミレニアル世代が考えるこれからの日本, 「メルカリ・小泉社長による『 1→100の組織設計を丸裸にする』人事組織(HR)勉強会の備忘録」, https://shuyuy.com/mercari-koizumi-hr.html(2023年6月1日 閲覧)

2. エス・エム・エスが向き合うマーケットの定義とは

次に、当社が向き合うマーケットの定義について解説します。

私たちは現在、高齢社会の課題解決に向け複数の事業を展開しています。 「高齢社会」というマーケットは、ステークホルダーの多さや政府の規制など扱う変数が多く、また変化のタイムスパンも長いため、実際に手を動かしながらでないと解決策が見えてこないような「複雑性の高い市場」です。そのため、私たちの向き合うべきテーマは「複雑性の高い市場での事業開発」であると考えています。

  • 複雑性の低い市場=課題に対する解決策がある程度見えているので、まとまった資金を投入すれば One product でインパクトを残せる
  • 複雑性の高い市場=巨大な資本力や単一のイノベーティブなアイデアは、持続的な成長ドライバーになりづらい

逆に「複雑性の低い市場」の例としては、QR コード決済の市場などが挙げられます。すでに海外で実例があり、プロダクトの姿まで見えていて、Winner takes all だったため、いかに早く市場を握るかがゲームの勝利条件となっていたようなケースです。

一方で、「複雑性の高い市場」はこうしたゲームのルールがわかりにくい領域です。

3. 全社の経営理念・バリューについて

次に、上記で説明した「複雑性の高い市場での事業開発」というテーマや事業特性をふまえた上で、経営理念・バリューはどのように位置付けられているかについて解説します。

3.1 経営理念について

エス・エム・エスの全社の経営理念は『永続する企業グループとして成長し続け、社会に貢献し続ける』です。

この理念からも、私たちは、“短期で成功して売り抜けるぞ!”というのを目指しているのではなく、社会と共存共栄し相互に発展していくことを目指しています。そのため、永続のために会社と社会との相互発展の永久機関のようなイメージを持っています。

ここで言う「永続」とは、変化しないことでなく、変化する社会に対して貢献し続けていくということです。

例えば、下の図式のように、変化する社会の中で貢献の量を増やしていくためには、組織が成長する必要があります。そして、組織が成長すると、個人へ新しい機会提供ができ、個人も機会を通じて成長できます。そして、個人の成長により貢献の量が増え、それが組織の新しい貢献へとつながっていきます。

社会への貢献が増えた組織は、売上などを通じて新しい成長を得て、そうしてまた組織の成長が個人への機会を生んで〜というスパイラルで、「組織・個人の相互発展により、社会への貢献の量を増やし続け、永続を目指していく」というのがベースの考え方になっています。

エス・エム・エス「経営原則 〜経営理念実現のためのマネジメントポリシー〜 組織と個人の相互発展」, https://www.bm-sms.co.jp/company/values/

このように、社会への貢献・価値提供をし続け、さらにそれを営利企業として毎年15%〜20%程度の売上・利益成長とともに続けていこうとすると、長期目線・連続性・継続性が重要になる一方で、非連続な成長・変化・拡張といったものも必要になります。 また、この成長ペースは4〜5年で約2倍の企業規模への成長を意味するので、このような成長を生み出す個人を組織として作り出し続けることが、組織や人材の観点で非常に重要であり、これが「個人」のあり方を考えるうえでベースになっています。

実際には、このペースでの成長を同じ事業だけで拡大していくことは非常に難しく、多くの企業では別の事業やサービス開発を行うケースが多いのも事実です。 しかし、当社は、ある程度同じ領域で永続成長を続けながら、4〜5年で約2倍に成長していくことを目指しています。

3.2 バリューについて

当社では、下記4つを全社のバリューと定めています。

大前提として、バリューというと会社組織のものと受け止められることが多いですが、エス・エム・エスにおいては会社のものであると同時に、組織やチーム、個人のどのレイヤーの視点へ移しても境界線はなく、同じであると考えています。

とはいえ、今回は現時点で皆さんに意識して欲しいことに絞り、あえてピックアップする形でお話ししたいと思います。

はじめに、上記4つのバリューのうち「価値主体であり続けること」と「社会からの要請を真摯に受けとめ続けること」はセットであると考えています。

「価値主体であり続けること」

まず、「価値主体であり続けること」について、これは「個人と組織=個と全」という関係性で考えると、個人として組織全体に対して固有の価値を発揮し続けることを示しています。

このバリューの背景には、一人ひとりが個人として能力や成長の可能性を持っており、組織としてその個人の価値を信じているという会社のスタンスが表れています。会社がやりたいことにただ従順な個人を求めているのではなく、個人として独立した志向や意志をもち価値を発揮する人物を求め、その個人の総和として組織が社会に貢献していくことを会社として望んでいるのです。

「社会からの要請を真摯に受けとめ続けること」

次に、「社会からの要請を真摯に受けとめ続けること」について、これは自分以外の社会や世界といった全との関わり方を示しています。

個として価値を持っていても単独で価値を成立できるわけではなく、あくまで自分以外の社会や世界との相互関係のなかではじめて個としての価値が生まれ、評価されます。 社会や組織、上長からの要請などに対して、それらにただ従うのではなく、「価値主体であり続けること」を軸に個人として価値を発揮しながらも、その価値が自分以外の社会との関係性のなかで相対的なものであることを理解し、独りよがりにならずに社会からの要請に対して、謙虚にそして真摯に受けとめ続けることが大切です。

また、個人と組織の関係性や、会社と社会の関係性も全て、この考え方と同じ捉え方をしています。そのため、このように個人を尊重する考え方が、さまざまな会社の方針の基礎となっています。

「変化対応し、成長し続けること」

次に、「変化対応し、成長し続けること」についてです。これは、個と全の関係性に対して「時間軸との付き合い方」を加え、時間の経過に沿って変わり続ける外部環境に対して、適用し、成長し続けることを示しています。

前述の通り、当社は4〜5年で2倍に成長していく会社であると考えているため、組織として、未来に対してコンスタントに変わり続ける必要があります。そして、これは組織だけでなく個人単位でも同様です。

そのため、例えば評価制度などもこのような考えがベースとなっており、「変化対応をし、成長していくことで貢献してほしい、そこへ報酬で報いたい」と考えています。

「誠実であり続けること」

最後に、「誠実であり続けること」についてです。 ここまで個と全の関係性、そしてそれに時間軸を加えたものが上記3つのバリューでしたが、ここではそれら3つのバリューにどのように付き合っていくかという姿勢を示しています。

エス・エム・エスが考える「誠実」は、「個と全、時間軸、そして世の中の構造を考えたときに、どこかに明らかな不利益を押し付けて得をしようという利己的な態度は長期的には無理が出るからダメである」というのが基本的な解釈です。

例えば、自身の得のために周囲の誰かしらへ不利益を押し付けたり、気付かないことを良いことに将来的な不利益を前提として短期的な得へ誘導したり、そういったことはいずれどこかに無理が出て永続が実現できなくなるのであってはならず、そうではなくフェアにいこう、というのが当社の考える誠実の基本的な考え方です。

また、誠実についても時間軸が影響を及ぼすと考えているので、時間の経過とともに変わっていく社会のルールに適応していくことも大切です。

4. プロダクト開発組織におけるバリューの位置付け

では、ここからプロダクト開発組織におけるバリューについて解説していきます。このプロダクト開発組織のバリューは、全社のバリューに基づいて定めています。

全社のバリューの抽象度の高さや解釈の自由度を適切に補う形で、さらにプロダクト開発組織の仕事の特徴を考慮しながら、より重要視されるべき部分に焦点を当て、全社バリューを補正・拡張するなどして設定しています。

5. エス・エム・エスが考える「プロダクト人材」とは

5.1 プロダクト人材の活動の目的について

まず、当社が考える「プロダクト人材」の定義について解説します。 当社では「プロダクト人材」とは、『ユーザーストーリーマッピング(2015)』にあるように、現在のデリバリーをしていくこと自体が仕事ではなく、最終的に「その成果をユーザーに対して生み出し、その先でインパクトを世の中に届けること」が本来の活動の目的であると考えています。

4_ユーザーストーリーマッピング キャプション:Jeff Patton 『ユーザーストーリーマッピング』 川口 恭伸、長尾 高弘訳(オライリージャパン、2015年) P13

5.2 プロダクト人材の仕事の特徴について

当社では「プロダクト人材」の仕事は、「不確実な市場に対する探求と実現の過程」であると考えています。

漸進的な成長を継続させることももちろん重要なのですが、NETFLIXの最強人事戦略(2018)に紹介されるエピソードのように、プロダクトの探索を行い、プロダクトだけに限らず、変化し続けるマーケットに対して問題解決の探索をしていくこと、そしてそれを実現していく過程を全てまとめたものがプロダクト人材の仕事です。

パティ・マッコード『NETFLIXの最強人事戦略-自由と責任の文化を築く』櫻井 祐子訳 (光文社、2018年) 序章

5.3 プロダクト人材とはどういう人材か、どのように働くのか

次に、プロダクト開発組織ではどのような人たちが、どのように働くのかについて解説します。

まず大前提として、プロダクト開発組織は「さまざまな専門性のある職能を持った人が集まったプロフェッショナル組織」であると考えています。それぞれが卓越した専門性をもち、自立したプロフェッショナルが集まっている組織です。 そして、私たちの仕事の目的である「変化し続けるマーケットの最前線でユーザーに成果を生み出し、世の中にインパクトを届けること」を達成するために、プロダクト人材はマーケットの最前線で、かつど真ん中で仕事をし、プロダクトの成長と変化へ責任を持っていると考えています。

一方で、ひとりでは「不確実な市場」へ対処できないので、チームで動き、問題解決をしていくことが必要です。そのため、チームとして成果を生み出すための仕組みとして、共通のプロトコル(考え方、プロセス、約束事、ツール)を理解して働くことも重要です。

このように、マーケットやユーザーに向けて価値を提供するのはプロダクトチームとそこで働く個人であるため、組織というのはそれをサポートするインフラであると考えています。一人ひとりが「もし、自分がプロダクトのオーナーとしてすべての責任を担っていたら、マーケットとユーザーに最善のプロダクトを届けるためになにをするか」を常に考えて、その実現にリーダーシップを発揮し行動することを期待しています。

6. プロダクト開発組織の人材理念について

ここから、プロダクト開発組織の人材理念について解説します。

全社の人材理念や行動指針との差異は、コラボレーションを中心とした働き方である点です。 全社のバリューである「価値主体・社会からの要請・変化対応・誠実」や、人材理念である「情熱・誠実・プロフェッショナル」を土台に、チームが主体の環境でいかにコラボレーションをするか、という点を強調した内容となっています。

また前提として、もちろん全体の戦略も重要ですが、それと同じくらいにプロダクト開発組織がユーザー接点の主役である、という考え方を重要視しています。

例えば、プロダクト人材はプロダクト細部の手触りを生み出したり、エンジニアの場合はユーザー体験の構築や実装する1行のコードがユーザーが触れるものを生み出すことにつながっているので、まさにユーザー接点の最前線の仕事です。そして、このような点からもプロダクト開発組織がユーザー接点における重要な事実に最初に触れる人物であり、場合によっては全体の戦略を覆すような重要な事実へ触れる機会もあります。そのため、プロダクト開発組織が自立的に思考して意思決定をしていくことが非常に重要であると考え、これらをベースに人材理念を定めています。

プロダクト開発組織の人材理念は、「Purpose」「価値主体と情熱」「社会からの要請」「プロフェッショナル」「誠実」「自治と信頼」の6つに分解されます。

以下に、当日の説明資料を添付し、理念の詳しい定義を解説しています。

「Purpose」

「価値主体と情熱」

「社会からの要請」

「プロフェッショナル」

「誠実」

「自治と信頼」

文中の「あなたがコミュニティ」という表現は、「Rubyist Magazine 0028号 巻頭言『コミュニティ』とは誰か」から引用しています。

7. 最後に

チームの拡大に伴い、改めて組織のバリューを言語化しました。チームがどこを向いて仕事をしていくのか、そして、何を大切にすべきなのか、共通の価値観を持って仕事をすることが重要であると考えています。

弊社ではエンジニアやプロダクト人材の採用を積極的に行っておりますので、ぜひご興味のある方はこちらよりご応募ください。