2021年4月にエス・エム・エスに入社した阿部です。現在は介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」の障害福祉サービス事業所向けの機能開発を行っています。まだ入社して半年ではありますが、私がなぜ転職という道を選んだのか、入社して感じた前職との違い、などをお伝えしたいと思います。
現在転職を考えておられる方、エス・エム・エスに興味を持っていただいている方のご参考になれば幸甚です。
転職の契機と企業選択の理由
ここではまず、私がなぜ転職をしたのか、その理由をお話したいと思います。
私は、前職は新卒で日本を代表する大手電機メーカーへ入社し、主に鉄道・上下水・発送電などの社会インフラや、製鐵所、化学プラントなどの制御システムで使用される基盤ソフトウェアの開発を行ってきました。
思えば長いものです。10年というキャリアの中で様々な業務をこなしてきたことで、新卒の頃と比べて自分なりに大きく成長できたと感じていました。一方で、社内での役職が上がるにつれて、以下のようなモヤモヤ感も感じるようになっていました。
- 残業に追われながら仕事をこなすだけになり成長が鈍化してきた
- 纏め作業ばかりで「モノづくり」に携われていない
- この会社の仕事のやり方・考え方しか知らない
そんな中、妻が妊娠したことをきっかけに、今の業務量では子供の成長が見られないのではないか、このままでは子供に「何で今の仕事をしているの?」と聞かれた時に胸を張って答えられないのではないか、という疑問を抱くようになりました。
このような疑問を持った理由は父にあると思っています。私の父は仕事で忙しく家にほとんどいませんでした。その部分では寂しさを感じてはいたものの、話をすると強い意思を持って仕事を行っていたことが垣間見え、その姿を尊敬もしてもいました。そのため、より子供に寄り添いつつも、父と同じように胸を張って仕事に望んでいる姿を見せたいと考えるようになったのだと思います。
前述のモヤモヤ感に加えてこれらの疑問を持ったことが、私が転職を決意した理由です。転職をするにあたっては、まず、自分はどのような企業に入りたいのかを考え、以下を転職の軸として転職活動を始めました。
- 現実的な業務量であること
子供の成長を見たいためです。前述したように転職を決意した大きな理由の1つであり、ここは外せませんでした。
- モノづくりに携われること
モノを作って動かす、ということには何事にも代えがたい楽しさがあると思います。特に、それが誰かの役に立つモノであれば尚更です。前職では昇進に伴い、取り纏め業務が多くなってしまいましたが、やはりモノづくりに携わっていたいという思いは強かったです。
- 異なる業種、異なるビジネスモデルを持っていること
10年間働いてきたことから、多くのことを学ぶことが出来ましたが、それはあくまでも一企業の中のものです。より広い視野を持つためには、異なる業種・ビジネスモデルを持つ企業で、今までとは違う経験をすべきではないかと考えました。
- 異なる技術スタック(Web、クラウド)を扱っていること
今まではずっとOSやミドルウェアなど、低レイヤーな技術を扱ってきました。このまま専門性を高めるのも面白いかと思いましたが、それよりも、これらに加えてWebやクラウドなどの上位レイヤーまでをカバーできると、技術者として大きく成長できるのではと考えました。
転職の方法は多くの方と変わらないかと思います。転職サイトへ登録し、エージェントを介した活動を行っていました。そして、上記の軸をエージェントの方々に伝え、紹介いただいた企業の中の1つがエス・エム・エスでした。
エス・エム・エスへの入社を決めた理由は、前述した軸が満たされていたことと、最後は「人」でした。新型コロナの影響でリモートでの面接・面談しかできませんでしたが、エス・エム・エスで働いている方々は大人な方が多く、選考プロセスもしっかりしている印象を受けました。また、面接・面談では部長やグループ長だけでなく、実際のサービス開発に従事しているチームの方々ともお話させていただく機会もあり、広くエス・エム・エスにフィットするかをしっかり見て頂けているという印象も持ちました。
長期的な視点で満足のいく転職であったかは社歴が浅いので正直なところ分かりません。ただ、現時点では転職を決断して良かったと感じています。子供の日々の成長が見られるのは嬉しいですね。
さて、話は変わりますが、転職をする際は転職先がどのような企業であるかなど、様々なことを調べるかと思います。私も色々調べながら転職活動を行っていたのですが、エス・エム・エスに入社してから、転職前には想像していなかったいくつかの驚きを感じることができました。次節では、それらについてお話したいと思います。
エス・エム・エスで感じた3つのこと
エス・エム・エスへ入社して感じた驚きとは、下記に示す前職との違いになります。
- 組織構造の違い
- 品質に対する意識の違い
- 技術的負債の溜まり方
組織構造の違い
エス・エム・エスへ入社して感じた驚きの1つ目は組織構造の違いです。特に、他者とやり取りするときの心理的障壁の高さには大きな違いがあると感じています。
前職では組織が縦割りかつ階層構造に分かれていました。そのため、各種権限がそれぞれの部署に分散させられており、縦割りの壁を超えて業務を円滑に進めるための調整業務が必要となっていたり、各種レビューの場では自部署・他部署の役職の高い方々からの「指摘」が頻繁に発生していました。
エス・エム・エスも組織上、部やグループは分かれていて、それぞれの責任者は存在します。しかしながら、私の所属するチームはスクラムの構造を取っているため、QA、PO、開発などの役割が分かれているだけでそこに組織上の壁や役職の上下関係は存在しません。権限を持つ小さく閉じたフラットなチームとなっており、改まった調整業務やレビューの場での「目上の方からの」という接頭辞の付いた指摘はありません。
こういった組織構成の違いは色々な媒体で紹介されていますが、実際に体験してみると想像以上の感覚的な違いがありました。エス・エム・エスにおいても、大なり小なり調整業務は必要ですし、レビューで他者からの指摘を受けることも当然ありますが、そこで感じる心理的障壁は圧倒的に低いです。
ザ・日本企業に勤務している方は、営業や品質保証部、開発部のそれぞれの担当の席が同じ執務室内の1つの島にチームとして存在し、それぞれの上長は他の建屋にいて一切干渉しない・できない(=その島の中で全てを完結させなければならない)状況と言えば分かり易いかもしれません。同じ平社員しかいないので気楽な会話ができますし、指摘にも柔らかさが出てきます。
ただ、良いこと尽くめではない側面も当然あると考えます。例えば、権限を持つフラットなチームで作業を進めるということは、業務プロセスや使用するツールも含め、開発・維持保守に係る多くの事柄を誰かに判断を仰ぐわけではなくチームで決定し、実行する必要があります。これは、結果としてサービスの仕様や品質の責任もチームに帰属するということになるため、サービスに対する当事者意識を高く持つ必要があるかと思います。
品質に対する意識の違い
2つ目は品質に対するスタンスの違いです。前職は圧倒的な高品質を目指していましたが、エス・エム・エスは品質だけでなく、コストや開発期間などの他の要素とのバランスを取る傾向にあると感じています。
具体的には、前職はインフラの制御システムを実装・提供しており、不具合により万が一にでもお客様の業務が止まってしまうと社会的問題に成りかねないことから、高品質・高信頼であることに大きな価値があるという考えがありました。そのため、提供するハードウェア、ソフトウェア、システム、それぞれのレイヤで厳しい品質要件が定められており、仮にお客様への納入後に不具合を検出した場合は基本的には最優先での対応を行っていました。
一方、私の所属するチームは前述した通りスクラムの体制を取っており、開発項目と不具合が同じプロダクトバックログへと積み上げられます。そして、これらをどのような優先度で対応していくのか、どの程度の品質を保つかなどもチーム次第となります。そのため、不具合が発覚した場合はお客様への影響度や修正コストを鑑みながら対応を検討し、場合によっては、暫定対応をまずは行い、本対応は他の機能追加などの案件との優先度に応じて対応時期を柔軟に調整することで、サービスの進化を止めずにお客様へのさらなる価値提供を優先することもあります。
ビジネスモデルや事業ドメイン、組織構成、企業の文化と風土、辿ってきた歴史など、前職とは様々な違いがありますが、企業が違えばこのような考え方にも違いが出るということに、新鮮な驚きを感じています。
技術的負債の溜まり方
最後は技術的負債の溜まり方についてです。転職前は「SIer=古い技術を使っていて、技術的負債が溜まっている」「SaaSベンダー=モダンな技術を積極的に取り入れ、技術的負債も日々解消できている」というステレオタイプなイメージを持っていましたが、実情はこの認識とは異なっていました。
たしかにSIerでは(前職の経験でしかありませんが)、事実としては古い技術を使うタイミングは多くありました。これは主に、24時間365日の連続稼働が求められるインフラを扱っていたことから高品質・高信頼の担保が絶対であり、そのために、長く稼働実績のある信頼できるソフトウェアを横展開して活用していたためです。(断っておくと、これは決して技術力が無いということではありません。むしろ、前職ではシステムを構成するソフトウェアのほぼ全てを内製化していたり、研究所との連携により独自技術を開発していたりと、技術力という面ではかなり高いレベルにあったと思います)
しかし、思い返してみればこのように古い技術を使用してはいたものの、下記のような理由から技術的負債が作られない・解消されやすいという面もあったように思います。
- 開発プロセスが整備されており、時間をかけた設計やレビューが実施されることから、クリアな設計ドキュメントが残され知見を広く共有できる
- 高品質・高信頼を重視する文化が根付いており、短絡的なコーディングがされ辛い、されたとしてもコードレビューでチェックされる
- 人の入れ替わりがWeb系に比べて少なく、個々のソフトウェアに関する知見が貯まりやすい
一方、SaaSベンダーの場合はどうでしょうか。あくまで私の所属しているチームの話であることを断った上で、SIerとの違いについての所見を述べます。
SIerとは異なり、SaaSベンダーは自社サービスを提供しているため、運用中のサービスに対して機能の追加や変更を高い頻度で行なっていきます。当然、前述したような設計ドキュメントの作成やレビューは実施しますが、かけられる時間が相対的に短く、人の入れ替わりも多いことから、結果として開発を繰り返すに従い技術的負債が溜まり易い傾向にあると思います。また、SIerにあるような大規模なシステム更改プロジェクトもない(リプレイスが行われることもあるでしょうが、それはプロダクトとしての一大事業になるでしょう)ので、溜まってしまった技術的負債を一気に解消する機会もなかなかあるものではありません。
つまり、SaaSでは技術的負債は溜まらないとか、自然と解消されていくとかということはなく、ある面においてはSIerよりも難しい部分があるというわけです。ここはSIer時代に抱いていたイメージとは違っていました。
なお、私の所属しているチームでも、処理がブラックボックス化してしまっている、実装の意図が読み取れなくなってしまっている、といったさまざまな技術的負債があります。この積み重なった負債を解消したいという思いから、機能追加時に周辺機能のリファクタリングを行うといったソースコードレベルの負債解消から、工数をかけて他のモジュールへの結合度を下げるといったアーキテクチャレベルの負債解消まで、多岐に渡る取り組みを日々行っています。
これらの取り組みにより全ての負債が解消できるわけではなく、お客様の利便性にも変わりはありませんが、将来のサービスをより良いもにのする際の足枷を取り除くという面においては、大きな意味のあることだと考えています。
SIerからの転職で「やっていける」のか
本エントリーの最後は、自分への自戒も込めて、SIerからの転職を考えている方へ「実際にやれてるの?」という視点での私の経験を述べたいと思います。
私は、前職では基盤ソフトウェアの開発を行っていましたが、エス・エム・エスでは介護事業者向けのWebアプリケーション開発を行っています。開発するソフトウェアのレイヤーも異なれば、ビジネスモデルも異なり、さらにはお客様の業種も全く異なります。そのため、入社前は大丈夫なのかなという不安を持っていましたし、実際に入社して間もない頃は右も左も分からないような状況でした。
ですが、今現在をやれている or やれていない、のどちらかかと言われれば、「まあ、全くやれてない事はないのかな」ぐらいの感覚は持てていますし、右か左かぐらいは分かります。これは、私自身が大学で情報処理を学んでいたり、前職が(広い意味で)同じソフトウェア開発を行っていたというバックグラウンドを持っていることに加え、入社後もチームの方々からの数多くのサポートを受けられていることがあってのことだと思います。特に、入社して2か月弱は、オンラインで毎日1時間の質問・相談会を設けてもらったこともあり、それにより不明点の早期解消や精神的距離感を縮めることができたと感じています。
もちろん、他の方々と比べたらまだまだ天と地ほどの差がありますし、その差を埋めるためには介護業界のドメイン知識の習得、Web技術の習得のためのOff-JTも必要になりますが、入社前に感じていた漠然とした不安に対しては、そこまで気にしなくても良かったのかなと思います。
一方で、前職での経験を上手く活かせているのかと言われると、今のところはあまりありません。ただ、今までが無かったからといって今後も全く無いとは思っていません。これから先の業務を進めて行くなかで活かせるタイミングがいずれ来るはずですし、そこで活かすことが私に求められていることだとも思います。
そのためには、まずは現状足りない部分を補うための努力が必要ですが、それに加えて、前職で培ったエンジニアとしての芯をしっかりと持ち続ける、ということもエス・エム・エスで業務を進めるにあたっての重要な要素だと感じています。
まだまだ、ただの一兵卒ですが、この初心を忘れず、いずれエス・エム・エスの発展の一翼を担えるようになれたらと思います。