PdM として入社してからの 2 ヶ月間 〜BtoB SaaS のドメイン知識キャッチアップの取り組み〜

2023年4月、介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」のプロダクトマネージャー (以下、PdM)としてエス・エム・エスに入社したキム ダソムと申します.

BtoB SaaS の特徴として,ある業界・業種に特化したドメイン知識が関わることが挙げられると思いますが,私自身を含め,周りの方々がドメイン知識のキャッチアップや理解に悩まされているように感じることがありました.

本エントリーは,改めて入社二ヶ月を振り返りながら入社するまで介護への知識がほぼゼロに近い状態だった私が,ドメイン知識や業界の基礎知識に関連して良かったと思った取り組みを中心に,継続的に実践していきたい学びを共有したいと思います.このエントリーを読んでくださる方にとってなにか一つでもお役に立てる部分があれば幸いです.

あえて全部を把握しようとしない

BtoB SaaS プロダクトが業務アプリケーションとしての性質を持っている以上,プロダクトにおいてミッション・ビジョンといった中長期的な世界観はもちろん,日々の意思決定を顧客やユーザーにとって価値あるものにするためには,業界・業態・業種を取り巻く状況とその中で起きている問題と課題を把握することは必須不可欠な作業です.

「カイポケ」は介護業界特化型のバーティカル SaaS ですが,厚労省から公開されている介護サービスは全 26 種類 54 サービスあります.初めてこのサイトを見たときは介護サービスの種類が多いことに圧倒されました.

https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/

そこで,キャッチアップ方法について周りのメンバーに相談をしたところ,キャッチアップへのアプローチはそれぞれでありながらも共通して「一人で全部を把握する必要はないです」というアドバイスをもらいました.

複雑なドメインだからこそ業界の仕組みや構造から全体像を把握することと業務(意思決定)に必要な最低限の情報を押さえて,あとは,社内のドメインエキスパートや周りのメンバーに背中を預けていく.

当時はキャッチアップのスコープが狭められたことにとりあえずホッとしました.一方で,終わりが見えない戦いになりそうという漠然とした不安を持っていたことも覚えています.しかしながら今振り返ると足元の状況を深ぼって理解することに時間を使うより,社会と法制度の大きい流れに沿った具体的な事象や課題の点と点を繋いでいくのが以下の点からしてとってもよかったと思います.

  • 変化し続ける社会と制度の方向性に対し関連情報が柔軟にキャッチできる
  • インプットした知識をアウトプットして現場の理解度を測りながら次のインプットの方向性をチューニングできる

狙いを定めて広げていく

ドメイン知識を全体に及んで理解していくアプローチをやめてからは,プロダクトマネジメントのトライアングルを拡張させた「トリプルトライアングル」を活用していました.

「トリプルトライアングル」は意思決定で使うものとして 2022 年 PM カンファレンスで紹介 されたものですが,ドメイン理解でも応用できると思い少しアレンジを加えて使っています.

1.視点を決める

私の場合 UX デザイナーにバックグラウンドを持っていることもあり,ユーザー目線で入る方が理解と共感の面でスッと理解できることから「祖母に介護が必要になったら」にフォーカスを当てて介護サービスを利用するまでの流れや介護サービスの種類のデスクリサーチを始めました.

次は私が実際に作っていた入社2週目のキャッチアップ目標になります.

2. 視座を最上位まで上げ1ユーザーとのつながりを掴む

一度家族目線で介護というものがどういったものか理解を進めた上で,介護保険法の意義や法改正の流れに移りました.

そうすることによって「今」存在しているサービスや直近の法改正の傾向や社会全体的な課題を調べながら,市場のマクロ的な数字や動向についてデスクリサーチを進めました.

3. 意思決定者や業務担当者のペインを抽出する

デスクリサーチから見えてきた情報やサービス事業所への探索型,仮説検証型のリサーチをしながら見えてきた課題をもとにプロダクトビジョン・ミッション・コンセプトを作り,コンセプト検証をしました.

入社してから2ヶ月で20ヶ所の現場に足を運んで実際に目でみて話を聞くことで解像度が上がったと思います.

おわりに:エス・エム・エスだから加速できたこと

現場に足を運んだりインプットへの時間をしっかり設けることはチームや組織の理解とカルチャーが関わる部分もあると思います.

最後はそういった環境要因でドメイン理解が加速した部分をご紹介したいと思います.

ビジネス戦略がクリアでオープン

プロダクト理解においてドメイン知識に付随して役に立ったのは自社のビジネス戦略でした.

入社してすぐのオリエンテーションでは会社の中期経営計画について共有されますが,会社の存在意義や中長期的な戦略がクリアで分かりやすくプロダクトのミッション・ビジョンとのつながりと整合性の確認がしやすかったです.

現場・現物・現実を重視する三現主義カルチャー

担当するプロダクトフェーズがちょうどユーザーリサーチを行っていたこともありますが,社内には普段から開発側が商談に同席したり,事業所体験ができる環境が整っています.

事業責任者も現場に行くことから得られる肌感覚を大切にしていて組織全体として現場を知る環境づくりを進めていることを後から知って,これからもどんどん活用したいと思いました.(『大規模SaaS「カイポケ」の意思決定を支える事業責任者の思考と技術』

入社5日目から現場に出向き事業所体験や見学ができたことと,実際のケアの様子やプロダクトが介在する場面を目で見て手に取ることでドメインとユーザー理解が加速できたと思います.