エス・エム・エスの開発組織が大切にする「マーケットに向けて働く」とは

1. はじめに

はじめまして。株式会社エス・エム・エスでプロダクトマネージャー(PM)をしている田中達規(@tatsunori_ta)と申します。

2022年5月に入社し、1年間は介護事業者向け経営支援サービス『カイポケ』の障がい領域に関するプロダクト開発を、現在は介護・保育・障がい福祉キャリア領域で採用・転職支援のプロダクト開発に携わっています。

また私はプロダクト開発部というPM、エンジニア、デザイナーが混在する部署に所属しています。入社して約1年が経った2023年3月に弊社技術責任者の田辺より、プロダクト開発部としての「バリュー説明会」が開かれました。恥ずかしながら私はこれまでエス・エム・エスにおける「Value」を考えずに仕事をしてきましたが、本説明会は改めて我々の仕事を見直す良い機会になりました。エス・エム・エスのプロダクト開発組織が大切にしていることをぜひ社外の皆さんにも知っていただきたいので、本記事にてまとめさせていただきます。

2. エス・エム・エスの事業について

エス・エム・エスが提供しているサービスは、医療・介護・福祉・保育など幅広くも特有の文化がある業界におけるプロダクトです。ステークホルダーが多く、政府や自治体が定める法規制や施策等で、プロダクトの要求事項を変化させる必要があります。また私はこれまでにtoB向けもtoC向けのプロダクトにも携わってきた経験はありますが、医療社団法人や社会福祉法人という営利目的だけではない法人で働く人達向けのプロダクトはエス・エム・エスで初めての経験となります。

プロダクトマネージャーとしては、「この機能さえ獲得すれば良い」「モダンでキレイなUIにすればKPIが上がる」というほど簡単な市場ではなく、難しくもあり面白いポイントでもあります。このように「複雑度が高い」市場をあえて選定しているエス・エム・エスは非常に特殊で、難易度が高く、プロダクトマネージャーは腕の見せどころだと日々感じています。

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そんな中2023年2〜3月にかけて、改めてプロダクト開発メンバー向けに技術責任者の田辺より「プロダクト開発人材におけるバリュー」が名言化され、発表・説明が行われました。以下は田辺が説明をしているドキュメントの一部になります。

プロダクト開発人材におけるバリュー

プロダクトづくりで日々体感していることが、田辺から改めて言語化されたことで、自分の中での腹落ち感が強くなりました。複数説明されたバリューの中でも個人的に気になり、大事にしたいと思っている「マーケットへ向けて働く」について紹介いたします。この記事を通して、エス・エム・エスのプロダクトメンバーがどのように「マーケットへ向けて働く」ことを体現しているかを感じ取っていただけると幸いです。

3. 「マーケットへ向けて働く」の意味

プロダクト開発の現場ではよく、「ユーザーの声を聞きなさい」という言葉を見聞きすることがあるでしょう。これは間違ってはおらず、ユーザーと対話してユーザーニーズを探り出し、ユーザーの課題を解決するプロダクトを構築していくことはエス・エム・エスでも大切にしていることです。ではここで田辺からあった説明会での内容も踏まえて解説していきます。

マーケットへ向けて働く

組織や任されている役割でなく、マーケットへ価値を提供できているかという視点で責任を担い、行動する。組織の論理や不確実性への自身の不安といったものへとらわれず、ただマーケットへ向けて働くとしたら今なにをすべきかを問い、必要なことをする。仕事なので。

こちらは田辺が明文化していた「マーケットへ向けて働く」を解説した補足説明です。まず特徴的なのは「ユーザー志向」などという言葉は出てこず、マーケットというより大きな概念での価値提供について言及されていることが分かります。目の前のお客様にどう価値提供し、その結果がマーケット(市場・業界)が良くなっていくという観点を持つきっかけとなりました。この感覚はエス・エム・エスに来るまではあまりなかったので新鮮であり、奥が深いなと感じた点です。

エス・エム・エスが向き合っている「高齢社会」という国家課題の社会要請は、日々変わり続けています。ユーザー・顧客の価値観だけでなく、政策状況によってやらなくてはいけないこと・やめなければいけないことも出てきます。

だからこそ「ユーザー」だけではなく「マーケット」という言葉を使っていると理解していますし、実際にプロダクトづくりに携わる一員として、「マーケット」に向けて働いている実感があります。

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社会への貢献を第一に謳っているエス・エム・エスでは、プロダクト開発メンバーも社会課題に向き合い、プロダクトを通して社会に価値を創っていく一員です。組織でもプロセスでも開発でもなく、「マーケットを良くすること」を最大の目的とした一言として、「マーケットへ向けて働く」という言葉が出てきていると理解しています。

4. 開発チーム向けのバリューとして「マーケットへ向けて働く」という言葉ができた経緯

今「マーケットへ向けて働く」という言葉が誕生したように見えますが、決してそういうことではないと思っています。もちろんエス・エム・エスのプロダクト部のメンバーでは、このバリューを体現している人が多いというのが前提です。改めて我々が大切にしたいことを言語化し、さらにこのバリュー体現度を上げていこうということだと理解しています。

社外の方や、最近エス・エム・エスに入られた方向けに一部補足していくと、この言葉の特徴の一つに「主体性」が含まれています。「ユーザーの声を聞く」だと受動的に捉えられますが(もちろん一概にそうではないですが)、「マーケットへ向けて働く」だと自らがマーケット側へ動いていくというニュアンスになります。そのため、マーケットを理解することは必須ですし、マーケットにプロダクトを届けていくというスタンスで仕事をすることが求められます。これはPMに限った話でなく、エンジニア・デザイナーも求められることです。

実際に働いている自分の感覚としては、マーケットの中に自分たちのチームが存在し、マーケットを理解しに行きながら、マーケットに必要なプロダクトを定義して作り、マーケットへ届けていくことを継続的に行っています。

5. 「マーケットへ向けて働く」に含まれている要素の解説

前述のバリュー説明会(およびドキュメント)では、それ以外のキーワードも挙げられていました。「マーケットへ向けて働く」に近い考え方を持っているキーワードをここでは紹介いたします。

5-1. マーケットへ向けて働く

☝ 組織や任されている役割でなく、マーケットへ価値を提供できているかという視点で責任を担い、行動する。組織の論理や不確実性への自身の不安>といったものへとらわれず、ただマーケットへ向けて働くとしたら今なにをすべきかを問い、必要なことをする。仕事なので。

この記事で最も解説したい内容がこの「マーケットへ向けて働く」です。主語が自分ではなく、マーケット(顧客・ユーザー・業界)であり、彼ら・彼女らの成功を何よりもミッションとして置いています。プロダクトを開発・提供していく過程で、売上を追うことや、自らの立場への不安というものはどうしても出てくるものです。特に組織という立場にいると、短期的なKPIを追ったり、自身の評価が気になるのは人間なので不思議なことではありません。

しかし私達が大切にしたいことは、最終的なGoalに向けて愚直に、自分が何ができるかを考え、行動することです。エス・エム・エスのプロダクト開発組織では、この動き・スタンスを良しとされる文化があります。

5-2. 相対的な視点で評価する

☝ 事実と解釈を分ける。事実を解釈するときに、主観的な視点だけでなく二人称、三人称での相対的な視点での評価をする。

「相対的な視点で評価する」は社内の中での働き方や考え方に関してのものもありますが、マーケット観点で見た時はどうでしょうか?例えば私が携わっていた児童福祉領域の事例にすると、我々が対象にするプロダクトのマーケットには、保護者・児童・サービスを提供する事業所・自治体・国と様々なステークホルダーが存在します。事実を得ようとしても、保護者の観点と、事業所の観点ではどうしても得られる情報が変わってきます。幅広ければ良いというわけではないですが、個人の主観にならずに二人称、三人称で事象を見ることで、課題設定が変わってきます。

「マーケットへ向けて働く」ためには、この相対的な視点が非常に重要になります。

5-3. 謙虚でいる

☝ 自分が間違っているかもしれないという可能性に対してオープンであること。防衛的にならない

主観以外の視点へ冷静な評価をするには、二人称、三人称視点でのフィードバックへ謙虚にいることが必要

ここで言う謙虚さは控えめであることの美徳ではない。それは Speak up に反する

顧客・ユーザーの課題解決のためであれば、「誰が言ったか」は関係のないことであり、自分の意見の正しさも関係がありません。そのため、プロダクトの意思決定者は私達PMですが、PMのアイデアは絶対ではありませんし、”間違いの指摘”はWelcomeというスタンスです。

マーケットに「正しいもの」を提供することが目的であり、自らの考えを時には否定し、他者の考えを受け入れることを重要視しています。そのため積極的にフィードバックをもらい、そのフィードバックをまずは受け入れるということを良しとしています。

私自身もエンジニアやデザイナーから「何故それを作る必要があるのか分かりません」と言われることはよくあります。しかし、その言葉のおかげで「では、どうするとユーザーにとってもっと良いですかね?」という議論がしやすくなります。前述した「相対的な視点で評価する」と似た内容ではありますが、二人称・三人称視点でフィードバックをいただけることは非常にありがたいですし、私も心がけないといけないなと思います。

5-4. Time-to-market 思考

☝ 本来やるべきことを最短で。高い成果へコミットするプロフェッショナルとして、本来やるべきことへフォーカスして最短で実現するように行動する。冗長なコミュニケーションや官僚的な手続きといったもので他者の時間を損なうことは組織のパフォーマンスを下げる

プロフェッショナルだから、Quality も Cost も Delivery も自分たちの裁量で適切なものを設定する。裁量を持つ責任として Time to market を意識して、自分の行動が会社にとってベストなものであるよう全力を尽くす

マーケットはいつまでも私達を待ってくれません。そして、社会要請が今あるということは、既にマーケットは我々が届けるプロダクトを待っています。(潜在的なニーズであるため、これがほしいというものを求めている状態ではないことが多いですが)

いかに早くプロダクトを通じて課題解決ができるか、社会・マーケットからの要請に早く答えるためには、重大・多重な会議や煩雑な手続きは不要です。だからこそ、どんな品質でいつまでにプロダクトを届けるかも基本的にはプロダクトメンバー各々に委ねられています。そして我々プロダクトメンバーは、プロフェッショナルな一員として、上長や会社のためにではなく、マーケットのために責任を持っているのです。

5-5. 自身の正しさよりもチームの成功を優先する

☝ チームは「あなたの正しさ」のために働いていない。マーケットでの成功 (ミッションの実現) が目的。自分の優秀さや自己顕示、自己正当化よりもチームの成功を優先する。自己正当化のコストを組織に負わせないこと

エス・エム・エスのプロダクト開発部が重視しているのは、「あなたの正しさ」よりも、「マーケットが正しいと認めるもの」です。この考えは、5-3.「謙虚でいる」にリンクする内容になっています。自分が何を言ったかは重要ではなく、チームとしての成果=プロダクトの形を大事にしています。

そのためには、チームの中で自分の考えが正しいとすることに時間は使ってはいけないですし、自分自身を正当化するような行動は必要ありません。そのような言動にパワーと貴重な頭を使うのであれば、マーケットに向けて正しいことをやっていきましょう。

1から5を踏まえてエス・エム・エスにおいて「マーケットへ向けて働く」とは

言葉の通りですが、私自身がこの言葉を聞いて、自分たちがどのように働いていくかを考えたイメージを記載します。

まずはマーケットをリスペクトして、この業界を理解すること。前述の通り、我々が対面する介護・福祉・医療・保育業界は複雑性が高く、ドメイン理解をし続けないとあっという間に市場が変わっている業界です。国の政策動向を理解する、マーケットにいるユーザーに話を聞く、ユーザーの顧客という直接の価値提供者ではない方に話を聞く、社内の有識者にヒアリングする。このようにマーケットを理解するというのが最初です。

その後はマーケットに対してプロダクトを創って届けていく仕事ですが、ここはチーム活動になります。チームの活動目的も、当然マーケットが主語です。マーケットに必要なものをチームで見極め、なるべく早くマーケットが求めるプロダクトを提供していく。そのためには、冗長な社内手続きや承認作業は不要で、何よりもマーケットに向かって動いていくことを追求しなくてはいけません。

対マーケットに向けた仕事はシンプルで簡単なように聞こえますが、マーケットが複雑な分なかなか実現の難易度は高いのが実態です。その精度・確実度を上げるためにチームプレイが必要となり、チームメンバー全員が謙虚にフィードバックしていく文化があります。

6. まとめ

エス・エム・エスのプロダクト人材におけるバリュー「マーケットへ向けて働く」について、田辺の言葉を借りながら、自分なりの考えをここまでに書いてきました。最後に今後「マーケットへ向けて働く」について自分自身がどのような考えを持っているかを紹介して、本記事を締めさせていただきます。

経営理念 ‐普遍的に追い求めるもの‐

永続する企業グループとして成長し続け、社会に貢献し続ける 当社は、社会をより豊かにするために、社会の要請に応え続けることにより100年を超えて成長し続け、社会に必要不可欠な存在として社会への貢献の総量を増やし続けていきます。

こちらはエス・エム・エスの経営理念です。これまでに記載してきたことからわかるように「社会からの要請に応える」ことは、経営理念であり企業として実現したい世界です。そのため、常に意識していることは「社会で必要となること、社会が必要とすることは?」から自ら考え、エス・エム・エスという企業の中でそれらを価値に変換して提供していくことです。

マーケットにとって必要で正しいことであれば、会社という枠組みと資産を使って自分のやりたいことを実現できる。言葉を選ばずに言うと、エス・エム・エスはそんな環境を提供してくれる会社です。入社して1年ですが、生意気な自分に様々な機会を提供してもらえていると思います。

だからこそ、今後も以下のようなことを意識して、エス・エム・エスという会社を超えてマーケットに必要なものを届けていこうと思います。

  • コトに向き合い続ける
  • 複雑なマーケットを誰よりも愛し、マーケットが求めているプロダクトを提供し続ける
  • プロダクトを通してマーケットをリードしていく

主語がマーケットであるプロダクトづくりは長期戦でタフですが、日々学びがアップデートされ楽しいです。短期で上手くいくということは少ないかもしれませんが、実現したい大きな世界観に向けて動いている・動かしていることを実感しています。