「マーケットに向き合う」エンジニアと経営陣がいたからこそ爆誕したデータプラットフォームチーム

2023年春、エス・エム・エスのプロダクト開発部にデータプラットフォームチームが立ち上がりました。データプラットフォームの構想から経営層の意思決定、チームづくりまでがスムーズに進行し、現在は技術選定を終え、実証の段階にまで駒を進めています。

ここまでスピード感をもって進めることができているのは、プロダクト開発部のバリューである「マーケットへ向けて動く」という意識が、経営層からチームメンバーにまで浸透していることの現れであるともいえます。「組織や各メンバーの役割だから」ではなく、「マーケットへ価値を提供できているか」という視点でそれぞれが責任感を持ち、プロジェクトに取り組んでいます。

今回は、データプラットフォームチームをリードする三浦に、データプラットフォーム立ち上げの背景や展望、またマーケットに対し日々どのように向き合っているのかについて聞きました。

顧客に価値提供するプロダクトとしてのデータプラットフォーム

——三浦さんの経歴や普段の業務内容について教えてください。

ソフトウェアエンジニアとして約15年のキャリアがあり、ガラケーのサービス開発や社内向け分析基盤の整備、小売業の機械学習パイプライン整備などさまざまな案件に取り組んできました。エス・エム・エスには3年ほど前に入社し、介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」の技術的な課題解決のための取り組みを始めていきました。現在は、プロダクト開発部のカイポケ開発グループで、カイポケのリニューアルをリードしています。エンジニアリングだけ/プロダクトマネジメントだけではなく、リサーチから、プロダクト戦略立案、リソース調達などあらゆる領域をカバーしています。

——現在カイポケでは、データプラットフォームの構築・整備を進められているそうですね。データプラットフォームの構想はどのような問題意識から生まれたものなのでしょうか。

介護サービス関連のデータが散在することで、利用者の全体像が見えづらくなっているという背景があります。詳細はこちらの記事(「なぜ介護事業者向け経営支援 SaaS「カイポケ」でデータプラットフォームをこれから作るのか」)にまとめています。

介護職員は、介護サービスを提供する事業所のほか、複数のサービス事業所や居宅介護支援事業所、医療機関などと日々連携していくことが必要となりますが、現状では、情報共有には電話とFAXが使われることがほとんどで、利用者のデータが分散してしまっています。

また、介護サービスは入退院の前後に提供されることが多いため医療との連携も不可欠ですが、医療ではバイタルデータなど定量的な情報を扱うのに対し、介護では普段の生活の様子など非構造化データの重要性が高まります。要配慮個人情報を扱うことから、高いセキュリティも求められます。

このため、利用者を軸にデータを集約・構造化し一元管理できるプラットフォームをつくり、介護サービス関連の事業所を横断してセキュアにデータ共有できる情報インフラの構築を目指すべきだと考えました。

——プロダクトとしては具体的にどのようなものをイメージされていますか。

データプラットフォームや分析基盤というと社内向けのイメージがありますが、最終的には、カイポケのお客さまに対して価値提供できるプロダクトにしていきたいと考えています。現行のカイポケにおいても情報共有機能は一部ありますが、事業所と利用者の1対1で共有する形となっています。これを、1人1人の利用者データに対して、各サービス事業所、介護職員、医療などあらゆるステークホルダーが適切な状態でアクセスできるようにしていくイメージです。

出典: 厚生労働省「地域包括ケアシステム」

顧客視点で課題感を解像度高く伝え、経営陣の理解を得る

——データプラットフォームに関するこれまでの取り組みについて伺えますか。

日常的にリサーチ活動をしているなかで、2022年秋ごろからデータプラットフォームの必要性を感じるようになり、大まかな構想を練り始めました。当時はカイポケの新アプリの方向性が固まり、スケジュールが見えはじめた時期だったので、データプラットフォームの取り組みに時間を掛けられるようになったという背景もあります。2022年末ごろまでに社内やアドバイザーへのヒアリングを重ね、2023年に入ってからカイポケの事業責任者の合意を得て具体的に動き始めました。2023年2月には、経営陣へプレゼンテーションを行いました。

——経営陣の反応はいかがでしたか。

社内のデータ分析関連組織を再編成する話が動いていたので、そことのつながりをどうすべきかという議論はありましたが、データプラットフォームのコンセプト自体には賛同を得られました。エス・エム・エスのミッション*1と密接に関わっているプロダクトであり、お客さまにとってどのような価値を持つものなのか理解してもらえたと感じています。

プレゼンでは、会社として長期的な視点で考えた際にどういう意味を持つプロダクトなのかを意識して話すよう心がけました。また、現行のカイポケの機能でのデータ連携による価値を評価していただいているお客さまの声や、エス・エム・エスのアドバイザーからいただいたデータ連携の要望などを紹介し、マーケットの現状についても整理しました。経営陣への提案がスムーズに通ったのは、お客さまやユーザーの観点から現在の課題感を解像度高く伝えられたことが大きかったと思っています。

実際にプレゼンに利用した資料の一例

あらゆるレイヤーのメンバーが「マーケットへ向けて動く」を意識

——経営陣としても「マーケットへ向けて動く」という意識が高いということですよね。

エス・エム・エスの入社最終面接で、代表の後藤からは、戦略を立てる際には長期かつ業界全体の視点をもって見渡すことに加え、フワッとならないよう会社や顧客の成果を解像度高く設定し、その成果から逆算して主体的に動いていけなければ、エス・エム・エスにおいてはリードしていく人材にはなれないと伝えられました。

経営との進捗会議の中で後藤からカイポケと隣接するマーケットで過去の事例を紹介してもらい、そのファクトからマーケットの見立てを説明していた時の解像度の高さに驚いた場面が何度もありました。「マーケットへ向けて動く」はエス・エム・エスにおいては十分に文化になっていると感じています。

——三浦さん個人としては、「マーケットに向けて動く」というバリューを普段の業務のなかでどのように意識されていますか。

最初に意識を持つようになったのは20代後半に転職したコンシューマ向けWeb サービス企業にエンジニアとして転職してからになります。その会社では常に自分の仕事を誰に評価されたいのか*2というところを起点に仕事をしていく文化でした。

さらに大きな転換点となったのは前々職の国内EdTech企業で、幼稚園生向けのiPad用の教材を開発していたときのことです。児童向け遊戯施設を国内外に展開する企業とともに、タイ・バンコクの遊戯施設でその教材をトライアル導入することになったのですが、実際に設置してみたところ現地の方からまったく利用されていないとの指摘を受けました。ビデオ通話で現場の様子が中継され、自分たちの遊具の周りにだけ子どもたちが集まっていない光景を見たときはショックでしたね。急いで現地に向かい、まずは実際の子どもたちの動きをみて課題を整理してきました。さらにその後は、開発チームのメンバー全員で現地に行き、改善を繰り返していきました。最終的には大盛況で終えることができたのですが、この経験を経て、プロダクトは最終的にユーザーの行動を変えるものであり、その行動に至る背景や目的、その後のアクションなどを具体化しなければ、最終的なプロダクト像は見えてこないと思うようになったんです。

——現在ではどのような形でマーケットを意識されていますか。

社内のドメインエキスパートやアドバイザーに日常的に話を聞いたり、リニューアルのコンセプトを検証するために現場へ同行して議論したりなど、基本的には現場に足を運ぶようにしています。また、厚生労働省が主催する介護分野における生産性向上推進フォーラム*3や健康・医療・介護情報利活用検討会介護情報利活用ワーキンググループ*4を視聴したり、財務省による予算執行調査*5の中から社会保障費に関わる分野の調査を調べて、介護の現場における情報の利活用の現状や今後についてリサーチを継続しています。

特に現状のカイポケでは、施設系の介護サービスに対応できないという課題があります。この課題に対応するために、事業責任者とともに現場へ向かい、実際の業務や利用者の様子、IT環境も含めた周囲の環境などを把握し、帰り道に業務の課題をディスカッションしたということもありました。

利用者にとってプロダクトは、画面の中だけで完結するものではありません。実際の環境があってはじめて利用者の行動につながるものとなるので、現場を理解していくことは非常に重要です。

マーケットに向き合っていれば、「未来にある普通」がつくれるはず

——データプラットフォームチームのメンバーの特徴について教えてください。

チームづくりは経営陣へのプレゼンテーション後に本格的に動き始めました。データエンジニアリングや分析の領域は採用市場が小さいうえに、経験値を積んでいる人材となるとかなり希少で、メンバー集めには苦戦すると思っていました。しかし、タイミングと運がよく3名の副業メンバーが集まりました。狙ってやったわけではありませんが、「人が人を呼ぶ」という状態ができていたのかもしれません。

メンバーは皆それぞれ、データプラットフォーム構築を複数回経験しており、視座を高く持って自走できるレベルの人たちです。抽象度や不確実性が高い状況でもデータの持つ力を理解できるメンバーであり、介護事業者の業務構造や情報分断という社会課題の重要性、データを通してお客さまに価値を提供することに対して皆強く共感しています。

——ここまでかなりスピード感を持ってプロジェクトを進められてきたように思います。何かハードルになった点はありましたか。

開発環境の整備やメンバーのスケジュールの工面など、立ち上げ時には多少苦労しましたが、比較的スムーズに進んでいます。長期視点かつユーザー視点で物事を考え、データの重要性を理解している会社だからこそできているように思っています。

——データプラットフォーム構築に向けた今後の展開や課題について伺えますか。

技術選定、アーキテクチャの設計はできているので、現在は実証フェーズに移っていく段階です。チームメンバーに加え、SREやアプリ開発、バックエンド、セキュリティを担当するチームなどとの連携が始まるため、ステークホルダーのコンセンサスを取ることが今後は重要な動きになっていくと考えています。

——最後に、三浦さん個人としてデータプラットフォームに掛ける思いをお聞かせください。

私としては、ドラスティックに業務や生活を変えるようなプロダクトよりも、「現在にはないが、未来にある普通」をつくっていきたいと思っています。当たり前であればあるほど、マーケットのシェアも拡大していくはずです。現場に足を運ぶようにしているのも、こうした考えがもとになっています。介護関係者が日々のケアで当たり前に利用するプロダクトを目指していきたいですね。