なぜ介護事業者向け経営支援 SaaS「カイポケ」でデータプラットフォームをこれから作るのか

介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」アーキテクト兼プロダクトマネージャーの三浦です。 以前テックブログにて紹介しました「カイポケ」のフルリニューアルにおいて、データプラットフォームを作って行くことにしました。今日はなぜデータプラットフォームに取り組むのか、そしてこれから作るカイポケにおけるデータプラットフォームで重要な特性が何かをご紹介します。

介護職員が要介護状態の高齢者と向き合うということ

令和2年度末(2021年3月)時点で介護を必要とする65歳以上の高齢者は日本国内に682万人*1います。682万人の要介護の高齢者に対して、高齢者の尊厳を守ることを目的に利用者の自宅や介護施設で入浴、食事、排泄などの生活支援やケアの記録や業務日誌の作成、家族との連携などの業務を行うのが介護職員です。介護職員の人数は推定で約201万人*2います。 介護職員が働く介護事業所は全国に約25万*3もあり、その数はコンビニエンスストアの店舗数の約4倍*4に相当し、介護サービスは日本においてインフラサービスと言えます。 インフラサービスである介護ですが、介護職員が日々向き合う要介護状態の高齢者とはどのような存在なのでしょうか?そこには要介護状態の困難な特性が3つあると考えています。

1.要介護状態は長期間にわたる

介護が必要な状態になるとほとんどの方は亡くなるまで介護を必要とします。みずほ情報総研株式会社(現 みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)がある自治体の2013年から2017年までの要介護認定のデータを分析した調査*5では、要介護の資格喪失者の約90%が死亡となっています。

また、死亡された方の要介護認定の期間を調べると15年程度が半数です。

介護が必要な状態になると約15年間、亡くなるまで介護サービスを受ける必要があり、介護職員は非常に長い期間、利用者と向き合う必要があります。

2.加齢に伴い様々な疾患が複合化する

加齢に伴う病気または心や体の状態の問題が複雑に関連しあうことで生じる、高齢者に多くみられる症状を老年症候群*6と呼びます。 この老年症候群は急性疾患関連、慢性疾患、介護の3つに分けられ、介護に関連する症状は75歳以上の後期高齢者から増加します。

高齢になればなるほど、そして要介護度が進むほど様々な介護サービスが必要となってきます。さらには介護だけでなく医療も必要となってきます*7

利用者の全体像を把握するためには、特定の介護サービスを提供する事業所に留まらず複数のサービス事業所や居宅介護支援事業所、そして医療との連携が日々必要になります。

3.要介護状態は不可逆性が高い

1年間での要介護状態の変化を区分ごとに見ると5% が軽度化、80%が維持、15%が重症化となっています*8

要介護度が軽度化する割合が低いことから、介護は医療と異なり治癒という前提に立てないという不可逆な構造があります。言い換えると介護サービスを提供していく中で、介護職員が利用者さんの状態が良くなるところを目にする機会は少ないと言えます。

今後さらにニーズが高まる社会背景

高齢者と長期間にわたって日々向き合う上で困難が多い介護職員ですが、85歳以上の高齢者は今後も増加するため、2040年度にはさらに約70万人が必要とされています*9

利用者さんの状態を介護・医療に関わる人全てが同じ情報を多角的に正確に把握し、利用者さんの状態が良くなる機会を増やすことで介護職員のやりがいを増やすことが、介護職員が圧倒的に不足するという社会課題を解決する上で重要であり、カイポケにとって支援するポイントの一つであると考えています。

「プロダクト」としてのカイポケのデータプラットフォーム

利用者の状態を多角的に正確に把握するためにはデータの利活用が必要となります。一方で平均年齢が 47.5 歳*10とされている介護職員であるためデータリテラシーは十分に高いとはいえません。そのため、利用者さんのデータを見える化するだけのテクノロジー中心のソリューションでは利用者さんのデータを十分利活用できるとはいえません。 データの十分な利活用のためにはカイポケのプロダクトのデザインと同様に既存の業務フローの分析に始まり、業務においてどうデータを利活用し利用者さんの状態が良くなり、最終的に介護職員のやりがいにつなげるのかという体験の設計が必要になります。

出典: DAMA DMBOK2 https://www.dama-japan.org/Introduction.html

カイポケでデータプラットフォームを設計していくにあたり、特に大切にしたいことは介護職員のユースケースから逆算し、リサーチやテストを通じてユースケースの解像度を上げ続けることだと考えています。

カイポケのデータプラットフォームを作る上で高く求められること

ではここまで説明してきたプロダクトとしてのデータプラットフォームをカイポケで構築する際に特に求められること、そして他のデータプラットフォームとの違いはなんでしょうか?

重要な違いは以下の3つの特性にあると考えています。3つの特性はデータマネジメント観点から2つ、システム観点から1つの特性を挙げています。

出典: DAMA DMBOK2 https://www.dama-japan.org/Introduction.html

  1. データ品質: 利用者さんのバイタル情報などを扱うことから、高い品質が求められます
  2. データセキュリティ: 利用者さんの病歴などの要配慮個人情報を扱うため、高いセキュリティが求められます
  3. システム可用性: 利用者さんの情報がいつでもどこからでもアクセスできるプラットフォームが求められます

これら3つの特性を高い水準で守るためのデータプラットフォームの設計、構築、運用をこれからしていきたいと考えています。

まとめ

介護職員が圧倒的に不足するという社会課題解決のため、そして利用者の状態をより良くするためのデータプラットフォームが必要であり、カイポケをフルリニューアルするこのタイミングでカイポケの顧客のためのデータプラットフォームを作っていくことにしました。この取り組みはテクノロジーによって長年の大きな社会課題を解決するというチャレンジであり、求められる品質はとても高いですがデータプラットフォームを推進していく面白さを日々感じています。 「プロダクト」としてのカイポケデータプラットフォームに興味ある方、腕試ししてみたい方はカジュアル面談でもっと具体的に作ろうとしているものをお話ししましょう!

*1:厚生労働省 令和2年度 介護保険事業状況報告(年報)https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/20/index.html

*2:厚生労働省 第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000207323_00005.html

*3:厚生労働省 令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service21/index.html

*4:JFA コンビニエンスストア統計調査月報 2023年4月度 https://www.jfa-fc.or.jp/folder/1/img/20230522122726.pdf

*5:みずほ情報総研株式会社 要介護認定等データ及び介護レセプトデータを用いた 要介護度変化の予測モデルにかかる実現可能性等の調査(2019) https://www.mizuho-rt.co.jp/case/research/pdf/mhlw_kaigo2019_03.pdf

*6:全国健康保険協会 高齢者の特性(老年症候群)https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/201701260083.pdf

*7:厚生労働省 社会保障審議会第29回介護保険部会資料

*8:厚生労働省 令和3年度 介護給付費等実態統計の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/kyufu/21/dl/11.pdf

*9:厚生労働省 第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000207323_00005.html

*10:公益財団法人介護労働安定センター 令和2年度介護労働実態調査 http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2021r01_chousa_cw_kekka.pdf