組織をコミュニティと表現する開発組織のバリューを読み解く

はじめに

はじめまして。2023年4月にエス・エム・エスに入社した橋口( @gusagi ) です。 今はエンジニアリングマネージャー(EM)として、介護事業者向け経営支援サービス『カイポケ』の中で訪問看護に関する機能を担当しているチームで業務に携わっています。

エス・エム・エスに入社するまでの経緯は個人ブログの記事にも書いたのですが、その記事の中に

先週に入社したばかりなのでキャッチアップ中心ではあるのですが、少しずつチームでのアクションに参加を始めています。

ドメイン知識はこれからになるのですが、これまでの経験を(失敗も含めて)共有することでチームのパフォーマンス向上に寄与していければと考えています。

と書いていました。

この記事を書いている現時点で上記の記事を書いてから約2ヶ月が経過していますが、キャッチアップを進める中で特に印象に残ったことを一つ紹介したいと思います。

プロダクト人材におけるバリューの明文化

エス・エム・エスには、エンジニアに限らず多くの人がWiki として使っているドキュメンテーションツールで情報を明文化する・共有すると言う文化があります。書かれている情報の種類は様々で、技術的な情報だったり、打ち合わせの議事録だったり、考え方に関する情報発信のための文章だったりします。 技術責任者である田辺さん自らもこういう取り組みを積極的に行っていて、「プロダクト開発人材におけるバリュー」も明文化されていました。 こちらの内容については、少し前に公開された記事『80人超のエンジニア組織で、6つのチームバリューを言語化しはじめた話』に詳しく書かれているので、今回は割愛させていただきます。 興味のある方はそちらの記事も読んでいただけると嬉しいです。

エンジニアリングマネージャーとして入社した私がこの資料を読んで特に印象に残った言葉が「あなたがコミュニティ」*1と言う言葉でした。

「あなたがコミュニティ」

この言葉の説明は以下のような文章が続いていました。

組織というコミュニティがなにかをしてくれるのではない。自治組織ではあなたがコミュニティ。あなたがコミュニティを代表する一人として考え行動することで自治組織になる。あなたが他人事だと思った瞬間から自治は崩れていく。

OSSのコミュニティ活動に関わったことがある人はイメージしやすいかも知れませんが、OSSコミュニティの活動は有志の人が主体的に考えて行動していることが多くあります。何かしらの活動に主体的に関わっている人たちの動きの集まりが、そのコミュニティの活動を成しているといっても良いかもしれません。

「あなたがコミュニティ」の説明を読んだ時、私はOSSにおける個々人の活動とコミュニティの関係に当てはめて、文中にある「組織」を「エス・エム・エスのプロダクト開発組織」として読み替えて捉えました。 つまり「組織が何かをしてくれるのを待つのではなく、自身が主体的に動くことでエス・エム・エスのプロダクト開発組織ができあがっていく」と受け取ったのです。

またちょっと話が飛びますが、プロダクト開発組織のバリューとして大事にしたいこととして、以下のキーワードもあげられていました。

  • 全員リーダーシップ
  • Speak up
  • プロフェッショナルスタンダードを高く持つ
  • 挑戦の称賛と失敗の許容
  • 自治と信頼

これらのキーワードについては、すべてが何かしらの形で「あなたがコミュニティ」という概念に通じるものと理解しました。

「あなたがコミュニティ」に通づるキーワードたち

そこで、これまでの2ヶ月の経験を踏まえた自分なりの解釈を言語化してみると以下のようになります。

全員リーダーシップ

リーダーシップというと何らかの役職を持っているような人間が発揮する指導力・統率力をイメージする方もいるかもしれませんが、ここでいうリーダーシップは「自分が為すべきことに対して主体的に取り組み、場合によっては他の人を巻き込んでいく姿勢」だと思っています。 役職があるからリーダーシップを発揮するのではなく、その人が為すべきことに向き合っていく姿勢があり、そこにその人の能力や周囲からのフォロー、あるいは運といった要素も絡み合って結果がついてくるのではないでしょうか。

また、リーダーシップについては同じEMである @emfurupon7772023年4月に書いた記事も参考になると思いますので、興味のある方は合わせてご覧ください。

Speak up

日本語に訳すと「声を上げる」「大きな声で言う」「直言する」となります。 必要なことであれば遠慮なく声をあげて自分の考えを伝えること。これまでの経験や考え方が違うからこそ、目的のために自分の考えを述べて議論を深めることで、周囲の協力を得ることができたり、自分が間違っている場合に指摘をしてもらうことができるのではないかと思います。

実際、先日に社内のSlackで田辺さんがフルタイムコミッターを同僚として雇うことについての考えを募った際にも「技術的に色々と聞くことができそう」「GitHub Sponsorsなどにより、OSS開発者への支援を優先して欲しい」「仮に同僚にOSSコミッターがいたとして直接的な刺激を受ける人がどれくらいいるだろうか」「フルタイムコミッターの方にとって環境的な満足度とかの観点も材料にした方が良い」という形で、複数の人が自分の考えを述べて議論していました。 特定の誰かが決めて後はそれに従うのではなくそれぞれが考えを持って意見を述べていたのを見て、まさにコミュニティだなと感じました。

プロフェッショナルスタンダードを高く持つ

短い期間にも変化していくエンジニアリングの世界で成果を出し続けるためには、プロとしての意識をしっかりと持ち、仕事のクオリティを自分自身で高く保つことが必要です。変化していく状況の中では何が正解かも定かではないことがほとんど。 そういった状況においても「これが今の自分が思う最善の手段である」と自信を持って言えるようなプロ意識を持ち続けたいと私も思います。

挑戦の称賛と失敗の許容

入社して約2ヶ月の短期間でも、必要だと思ったことに対して「とりあえずやってみる」を許容し、後押しする文化があるように感じています。 実際、入社して1ヶ月程度経った時点で採用に注力する必要があると思い、田辺さんに1 on 1の時間を急遽差し込んだ上で「主体的に採用に関わらせて欲しい」と相談したところ、5月から採用にも携わるようになっています。

また、短期的な成功・成果を最重要とはしておらず、より本質的な課題に向き合って組織としても個人としても変化と成長を続けることに重きを置いているように感じます。

自治と信頼

これは入社してから驚いたことですが、チームによって選択している技術スタックやツール、チームとしての動き方が異なっています。

例えば、私が所属しているカイポケで利用している言語はJavaがメインとなっていますが、カイポケのリニューアルプロジェクトではKotlin / Spring Boot / TypeScript / GraphQLというモダンなアーキテクチャを採用していますし、介護キャリア事業の開発チームではRubyをメイン言語としています。 また、タスク管理の方法についてもこちらの記事で紹介されているようにTrello / Asana / GitHub / Jiraとチームに合わせて自分たちで選択しています。

フェーズも異なる40を超えるサービスを開発・運営しているので、すべての技術スタックを統一することは難しいのは当然としても、チームとしての動き方までそれぞれで異なっているのは、各チームに必要な裁量が委譲されているからだと思います。 その上で、チームごとに自分たちがやるべきこと・必要なことに向けて取り組み続けているのがエス・エム・エスの開発組織の強みなのだと感じています。

「あなたがコミュニティ」を読み解く

私が考える「あなたがコミュニティ」を言語化するなら、以下となります。

  • 個人
    • 誰もが自分が為すべきことに対してプロ意識を持って取り組む
    • 主体的に考え発言し人を巻き込みながら挑戦をする
  • 組織
    • 各員に対する信頼をベースとして取り組みを任せる
    • 挑戦に対しての賞賛と失敗に対する許容を是とする

この流れが組織自体の文化となっていくし、逆に他人任せだと信頼も薄れ、自治ではなく統治となり、主体的な挑戦などは失われていくのだろうと思っています。

実現したい自分なりの「あなたがコミュニティ」

ここまで、エス・エム・エスのプロダクト人材におけるバリュー「あなたがコミュニティ」について自分なりの考えを書いてきましたが、実現したい自分なりの「あなたがコミュニティ」を最後に書いて、この記事を締めたいと思います。

これまで書いたように、エス・エム・エスでは主体的に行動することやプロフェッショナルであることに対して価値をおいている会社です。そして、そういった人であれば、どんどん機会を作り出して組織を変えていくことができる会社でもあります。 期待されるレベルが高くなることは否定できませんが、ハードルを越えることで自身が成長できる環境を求める人であれば、とても面白い環境だと個人的には感じています。 一方で、エス・エム・エスが向き合っている社会課題に目を向けると、2023年4月下旬に国立社会保障・人口問題研究所が発表した日本の将来推計人口(令和5年推計)が話題になったように、日本の少子化・高齢化は急速に進んでいます。そんな社会課題と向き合いながら会社として成長し続けるためには、「チーム」「担当システム」「職能」の枠を超えて連携を強化していくことが欠かせません。 そのために、以下の項目に対して主体的にチャレンジしていきたい、そのためにも成長を続けていきたいと思います。

  • チーム横断の形でナレッジを共有できるような場をどんどん作っていく
  • エス・エム・エスのプロダクト開発組織について社外の人たちにもっと知ってもらって、会社の枠を超えた連携を実現したり、エス・エム・エスに入社したいと思ってくれる人を増やしていく
  • 現在フルリニューアルプロジェクトが進んでいるカイポケを現在のシステムと新しいシステムとして分けるのではなく、「一つのカイポケ」という形でお客さまからも社内の人からも地続きの状態にしていく
  • 多くのチャレンジをなるべく楽しみながら取り組んでいく!

上記は一人の力で実現できるイメージはありません。色々な人のチャレンジングな取り組みに助けてもらう必要もあるでしょうし、エンジニアリングマネージャーとしてそれを後押ししていきたいとも思っています。 もし上記の項目がこの記事を書いたときよりも実現に近づいてきたと自分で感じることができたなら、私の思う「あなたがコミュニティ」に近づいているということになるんじゃないかと思っています。

*1:「あなたがコミュニティ」という表現は、「Rubyist Magazine 0028号 巻頭言『コミュニティ』とは誰か」から引用しているそうです。