過剰に丁寧な言葉を使って壁をつくらない

エス・エム・エスの技術責任者 @sunaot です。この記事では組織の文化をつくっていくときにどういうことをしているかを説明します。文化をつくるといったときに、もちろんトップレベルでどういう状態を目指しているかは大切なのですが、普段からチームづくりに心を砕いている人はよくご存知の通り、細かな日常での振舞いが大事になるという話です。

なぜ過剰にへりくだった表現に対してツッコミを入れるのか?

例として、「社内に対しての非常に丁寧な言葉使いに対してどのように振る舞うか」をテーマに説明をします。「なぜ過剰にへり下った表現に対してツッコミを入れるのか」と言い換えてもいいかもしれません。

仕事をしているとたまに「〜していただけたら幸いです」「ご教示ください」といった言い回しに出くわすことがあります。所属している組織の文化によっては違和感を感じることなくスルーするでしょうし、仮に若干の違和感を感じたとしても「その人はそういう人なのだ」としてやはり流してしまう人が多いと思います。

しかし、私はわりとかなりの頻度で「それは望んでいる態度ではないのです」ということを伝えます。たとえば、「ありがとうございます。〜でいいと思います!あと、同僚なので『これでお願いします!』くらいのノリで行きたいです!」というような返信をしたりしています。言葉使いは信頼関係から来るシグナルなので、そこをきっかけにそもそも信頼関係を築けるようにしていくというのも並行してやりますが、それも含めて組織の前提を『社交儀礼としての糖衣を取り去り、相手を信頼してストレートな要求をしてもいい組織だ』という基本的な信頼へ置きたいというのを伝えていくようにしています。

言葉使いに遠慮があると、どうしてもマーケットやユーザーへのベストを考えたときに、周囲に対してタフな要求をするということの難易度が上がり、最短でマーケットへ価値を届けるというのが難しくなります。そこで

  • 私たちの組織ではまず最短でマーケットへ価値を届けるのが一番重要なことで、同僚はそこに向けて一緒に困難へ取り組む仲間だというスタンスで居たい
  • そのときに、遠慮や過剰な丁寧さは不要で、それよりも目の前の課題をどうクリアしていくかを率直に話せる関係性を大事にしましょう

という主旨を理解してもらうようにしています。

特に役職がついていたりすると、世間においてはそれなりに尊重をして然るべきという理解をされることは多く、必要以上に丁寧な物言いを見かけることがあります。これは上意下達の文化が強く、それが事業フェーズに合っているのであればその方がワークするのでしょうが、2023年時点のエス・エム・エスはそうではなく、むしろ現場ドリブンでの新しい発見こそが次の成長やリスク認識の種になるというフェーズです (あと20年はおそらくそうでしょう)。この状況で『役職上上位にあたる人は尊重すべきであり、より正しい意思決定をできるのだ』という認識は完全に実情に合っていません。『立場によらず、事実や合理的なロジックによってユーザーやビジネスにとってより良い意思決定がされるべき』という考え方が「普通」になることはとても重要だと考えています。

望ましい振舞いを皆が見える場で表明してチューニングする

ではそのような組織はどうやったらできあがるでしょうか。もちろんこうしてどういう状態を目指しているかを明文化して表明していくことも大切ですが、それだけでは文化は定着しません。組織の文化は行動の積み重ねが作ります。文化として目指している価値観のように行動をしている人が増え、お題目を唱えなくても価値観通りの振舞いが組織に溢れていると、皆がそのような組織のスタンダードに従って行動をするようになっていきます。

冒頭で挙げた言葉の使い方というのは非常に小さい話で、マネージャーがそのような細かい点へ口を出すのは適切でないように思われるかもしれません。正直なところ、私自身も細かいことを言われるのが人並み以上に嫌いな性格なので、マイクロマネジメント臭がして嫌だなと感じるときもあります。しかし、How に口を出すマイクロマネジメントと組織の文化をつくるための行動のチューニングは別のものだと考えて、How への干渉をなるべくしないことを意識する一方、組織の中で望ましい振舞いをなるべく広く皆が見える場で表明してチューニングしていくことは極力行うようにしています。前述の通り、そうして皆がどのように行動するかが組織の文化をつくると考えているからです。