Unlearn Datadog, Relearn Datadog

この記事は株式会社エス・エム・エス Advent Calendar 2024 および Datadog Advent Calendar 2024の4日目の記事です。

qiita.com

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こんにちは、介護/障害福祉事業者向け経営支援サービス「カイポケ」のリニューアルプロジェクトでSREを担当している加我 ( @TAKA_0411 ) です。SREチームの中では主にモニタリングとオブザーバビリティに関する全般を担当しています。

エス・エム・エスでは複数のプロダクトを開発・運用しており、オブザーバビリティに関するサービスの選定についてはプロダクトの規模感や特性、ユースケースなどを考慮し最適なものを導入しています。私が携わっているカイポケのリニューアルではDatadogを採用しており、サービス全体のオブザーバビリティの設計だったりSLI/SLO周りの設計などをみんなで考えつつ開発を進めている状況です。

会社やプロダクトにより導入しているオブザーバビリティSaaSは様々だと思いますが、私が直近で利用していたものは下記のように推移しています。

前々職 : Mackerel, Datadog
前職 : New Relic
現職 : Datadog

前職ではNew Relicの使い方を学び活用方法を考えるのに多くの時間を費やしていたため、自然とDatadogの知識や成功体験をリセットするUnlearnに至りました。そして改めてDatadogを利用するにあたり、Datadogを再学習 (Relearn) するにはどうすればいいかを考えこの記事を書いています。

オブザーバビリティSaaSの違いについて

DatadogやNew Relic、SplunkといったオブザーバビリティSaaSは「システムが生成するテレメトリーデータを収集し分析し可視化する」といった機能の点においては概ね似たようなことが実現できると言えます。

Full Stack Monitoring より引用

インテリジェントオブサーバビリティプラットフォーム より引用

Splunk Observability Cloud より引用

一方で対応しているテレメトリーデータの種類や生成AIの活用、セキュリティへの対応といった機能観点での違いがあったり、テレメトリーデータを操作するためのUIが大きく異なっていたり、取り込むデータの単価や有償のアカウントの有無といったコスト観点での違いもあります。

Relearn Datadog

ここからは私がエス・エム・エスに入社してからDatadogをRelearnするに至った経緯や実際に取り組んでみたことについて紹介します。

1. 理想と現実のギャップ

実を言うと入社直後の私は「New RelicもDatadogもやれること・やることは一緒だし、以前利用していたからすぐに思い出せるだろう」と過信していました。しかし、実際にはDatadogのWeb UIの階層構造の変化に戸惑ったり、Datadogの各種設定方法を思い出すのにそれなりの時間を要するという有様でした。

特に前職で利用していたNew RelicのNRQL (New Relic Query Language) があまりにも便利で多用していたため、DatadogにおけるSQLライク “ではない” テレメトリーデータの分析やアラートの設定方法を思い出すのに躓いてしまったことは否めません。

補足 : Previewというステータスですが、DDSQLというSQLライクなクエリ言語がDatadogにもあります。 https://docs.datadoghq.com/ddsql_editor/

というわけで、前々職でDatadogを利用していた頃から今に至るまで多くの機能やWeb UIにアップデートがあり、それにあわせて私の知識をアップデートする必要があることを痛感しました。それほどクラウドサービスの進化は早いのだと驚かされます。

基礎を固めるのは非常に重要であり、特にSaaSにおいては設計思想を学ぶことでより良い活用に繋がるというのは過去に得られた多くの学びのうちの1つです。Unlearn and Relearnということで改めてDatadogを学んでいきます。

2. ドキュメントや書籍による学習

Datadogの使い方を学ぶにあたり、公式のドキュメントやeBookを読みつつ、当時私が購入した書籍が手元にあることを思い出し読み返してみました。

この本は洋書であるため、英語が得意ではない私にとっては読み進めるのに若干の負担があります。また、ところどころ現在のWeb UIや機能からビハインドがあります。しかし、Datadogの基本となる考え方や操作を思い出すのには全く問題ありませんでした。300ページという若干厚めの本ではありますが、覚えていた箇所を適度に読み飛ばしてDatadogの知識と記憶を少し取り戻すことに成功しました。

3. Datadog Learning Centerとの出会い

さて、ここからが本記事のメインです。

私は技術に関しては書籍で学ぶことが多く、過去にはNew Relicを学ぶために下記の書籍を何度も読み返すことで設計思想を理解し活用してきました。

Datadogにも入門書的なものがあると嬉しいといった旨の話をDatadogでSales Engineerを務めている Taka2さん に相談してみたところ「書籍についてはすぐに回答はできないが、Datadog Learning Centerというeラーニングがあるのでそこで学ぶことができる」という回答を頂けたのを思い出しました。

実際にDatadog Learning Centerを触ってみようと思い下調べをしていたところ、詳細に書かれた下記のブログから有益な情報を得ることができました。

zenn.dev

今の自分にはちょうど良さそうだと考え、実際にDatadog Learning Centerのアカウントを作成していくつかのコースを受講してみました。

Datadog Learning Center

Datadog Learning Centerの活用

まずは利用するためのアカウントを作成する必要があります。下記のページにアクセスし必要情報を入力してアカウントを作成しましょう。

アカウントの作成

アカウント作成後、ログインするとコースの受講具合・進捗具合を確かめることができます。途中でサイトから離脱した場合も進捗をカウントしてくれるので「続きは明日やろう」というのも問題ありません。

My Dashboard

ということで、試しに基本となる3つのコースを受講してみることにしました。受講する順番はこの流れが個人的にオススメです。まずはオブザーバビリティについて学び、次にDatadogのWeb UIを触りながら全体像を掴む、そしてDatadogの基本的な機能の実践的な使い方を学ぶという流れです。

1. Introduction to Observability

Introduction to Observability

このコースではDatadogを使い始める前に「オブザーバビリティとはなにか」について学びます。オブザーバビリティとモニタリングの世界を初めて学ぶ人のために設計されており、Datadogやそれ以外のモニタリングサービス・ツールに関する予備知識は不要となっています。

このコースは動画を見て学ぶ座学形式となっており、オブザーバビリティの主要なテレメトリーデータであるメトリクス・トレース・ログについて理解し、モニタリングとアラートについて学ぶことができます。言語は英語ですが、日本語字幕のON/OFFや再生速度の変更などの設定が可能です。ちなみに日本語字幕は比較的良好な精度でした。

私はSREとしてテレメトリーデータに慣れ親しんでいるという自負はありますが、それぞれのテレメトリーデータの定義、構成要素、収集する必要性については言語化が苦手でした。曖昧な理解にとどまっていたのでしょう。しかし、このコースを受講することで各テレメトリーデータの定義についての理解が進み、言語化も前に比べて改善したと思っています。

仮に各テレメトリーデータの定義を忘れてしまってもこのコースに戻って来ることで何度も復習できます。このコースはDatadogの利用の有無に関わらず多くのエンジニアにオススメです。

2. Datadog Quick Start

Datadog Quick Start

「あなたはマイクロサービスで構成されたEコマースアプリの健全性とパフォーマンス監視のためにDatadogを使い始めました」というストーリーで始まるこのコースでは、下記4つの項目についてDatadogの検証環境 (ラボ環境) を使用して学ぶハンズオン形式となっています。画面は検証環境のアカウント情報が記載されているコンソールと、レッスンのテキストで構成されています。

  • ダッシュボードの操作
  • ログデータの検索と可視化
  • サービスカタログによるサービス詳細の確認
  • モニターの管理

このコースはDatadogのWeb UIから各機能へのアクセス方法や、データを調査する際にどういった流れで行うのかといった基本的なDatadogの操作方法や考え方を学ぶことができます。私がDatadogをRelearnするにあたって必要だったのはまさしくこのコースであり、入社後すぐに取り組めば良かったと後悔する程度には得られるものが多かったです。

3. Datadog Foundation

Datadog Foundation

最後に紹介するのはDatadog Foundationというコースです。このコースは下記の5つの機能を学ぶためのレッスンで構成されており、それぞれのレッスンは前後半2つのパートで構成されています。前半のパートでは座学で機能とコンセプトを学び、後半のパートではハンズオン形式でDatadogの検証環境を使用して設定変更などを行います。

  • Universal Service Monitoring (USM) and Service Catalog
  • Logs
  • Metrics
  • Integrations
  • Dashboars

まずは動画を見て機能とコンセプトを知り、実際に検証環境でWeb UIを操作してみて理解するという構成がいい感じです。同じハンズオン形式であるDatadog Quick Startのコースに比べてそれぞれの機能をより深く学ぶことができるため、より実践的なコースであるという印象を受けました。特に後半のハンズオンパートは意外とボリュームがあり驚きました。コンソールにIDEのメニューが増えており、docker-compose.ymlファイルを見つつDatadogの検証環境の表示を比較するといったものがあります。

Datadogでのログ周りの集計やビジュアライズの方法をすっかり忘れてしまったこともあり、こちらのコースでしっかりと復習することができました。簡単な確認テストがいくつかあるので復習もできます。

まとめ

Datadog Learning Centerを活用することでDatadogの知識をRelearnした話を書いてみました。

Datadog Learning Centerは無料で利用でき、実際にDatadogの検証環境が利用できる期限付きのアカウントが払い出されるため、書籍やドキュメントなどに比べて学習効率が高いと感じました。これからDatadogを触る人や、私のように久しぶりに触る人にとっては最適なコンテンツのように思えます。チーム共通の知識としてエンジニアの入社後のオンボーディングに組み込んでみたり、あまりDatadogを使いこなせていないチームに受講して貰って活用のきっかけにしてもらうというのも良さそうです。

Datadog Learning CenterにはDatadogの機能を学ぶためのコースだけではなく、前述のオブザーバビリティへの理解を深めるコースやSite Reliability Engineerについて学べるコース、OpenTelemetryを学べるコースなどもあります。先日のJAWS FESTA 2024では「オブザーバビリティはツールを導入するだけでは実現できない」という話をしましたが、オブザーバビリティの意義を正しく理解することでHowとしてのDatadogがプロダクトの課題を解決する手助けになるでしょう。

また、Datadogの認定試験ではDatadog Learning Centerの一部のコースを学ぶことが推奨されており、学習 → 認定 → 活用という一連の流れが上手く設計されているという印象を受けました。

www.datadoghq.com

私も来年こそはDatadog認定資格を取得しようと考えているため、まずは全てのコースを制覇しつつDatadogへの理解を深めていこうと思います。みなさまもDatadog Learning CenterでLearn・Relearnに挑戦してみてください。