はじめに
こんにちは、カイポケのリニューアルプロジェクトを担当しているエンジニアの田所(@ikuma-t)です。昨年10月に入社し、現在は請求関連の機能の開発を行っています。
カイポケが価値を提供する介護業界について、日常的には馴染みがないという方も多いかもしれません。私も入社以前は後期高齢社会における社会課題の1つであると漠然と認識している程度で、介護業界の制度についてはあまり詳しくありませんでした。「介護業界については未経験でも大丈夫」という言葉を信じ、この会社に入社しました。
今回は私のように未経験から介護業界へチャレンジするメンバーを支える、介護業界理解のためのワークショップ研修について紹介します。この記事では実際に介護業界に触れてみて感じた介護業界の難しさを踏まえた上で、研修ではどのようなことを得られるのか、また実際に研修を経てプロジェクトに参画してみての感想をお伝えします。
介護業界の難しさは細部の複雑さにある
制度自体の入り口はそこまで難しくない
約半年という期間ではありますが、介護業界に向き合って感じたのは「制度自体の入り口はそこまで難しくない」ということです。

引用は厚生労働省の介護サービス利用までの流れです。「要介護1」であったり、「介護予防事業」などの見慣れない単語はあるかもしれませんが、利用者が介護を受けるまでのフローは(図自体が簡略化されているということもありますが)意外とシンプルです。
- 利用者が市区町村の役所に相談
- 利用者の情報を入力に、介護度(どの程度の介護を必要とするか)を出力する
- 介護度に応じた介護の計画を立てる
- 計画に基づいた介護サービスを受ける
自身の周囲に実際に介護を受けている/提供している方がいなくても、なんとなくお手持ちの健康保険証や、普段ニュースで見かける話題から、ぼんやりと大まかな流れを想像できるのではないでしょうか。
多様な環境に対応するために複雑にならざるを得ない
一方で実際に開発を進めていくとなると、当然先ほど示したフローチャートの範囲の知識だけではすべてを賄うことはできません。「おおよそのケースではこのフローに則るが、一部外れるケースもありうる」ということがよくあります。
制度は実際に介護を提供するためにあるものですが、その介護の形は人によってさまざまです。要介護者の症状や、要介護者のまわりの家族のあり方の変化、介護サービスを提供する行政の財政状況など複数の要因が絡み合い、それらに合わせて制度のあり方は変化しています。
このことは介護保険法の変遷や、今も3年に一度法改正が行われていることからもみて取れるでしょう。
また介護業界にあまり馴染みのない人にとっては、例外的なケースは制度以前にそれが必要となる状況自体を想像するのが難しく、余計に難易度が高く感じられると思います。
メンタルモデルをうまく構築することで早く理解できるようになる
新しい概念を自分のものにするための方法にはさまざまなアプローチがありますが、その一つに「メンタルモデルの構築」があります。以下はプログラミングの文脈で書かれたメンタルモデルについての記事からの引用です。メンタルモデルの定義について書かれた内容ではありませんが、メンタルモデルを成熟させることの意味が書かれているため引用させていただきました。
未知の概念を使えるようにするには、その概念についてイメージを頭に思い浮かべられるようにする必要があります。ここで浮かべるイメージをその概念の「メンタルモデル」と言うことにしましょう。僕らはより高度な概念を理解するためにそのメンタルモデルを思い浮かべながら文章を追いかけます。もしメンタルモデルと文章に矛盾が発生したらメンタルモデルを修正します。そうして矛盾が発生するごとに今までの事象を全てうまく説明できるように修正していき、メンタルモデルの完成度を高めていくのです。
理解の基礎となるメンタルモデルを築くことにより、そことの類似性や差分から新しい概念を早く理解できるようになります。
介護業界の理解においても、例外的なケースと大枠のフローをひとくくりに摂取しようとすると、その情報量に圧倒されるか、あるいは1つ1つの情報の咀嚼に時間がかかってしまいます。そのためはじめの段階でしっかりとしたメンタルモデルを構築することが、介護業界理解の鍵となります。
ワークショップ型研修でメンタルモデルを構築する
介護業界理解のため、中途入社者向けにワークショップ型の研修が実施されています。
オフィスに集まり、1日かけてドメインエキスパートの方と介護業界についての理解を深めていきます。

介護業界を、考えて、書いて、理解する
ワークショップの中では講義パートとグループワークのパートがあり、グループワークのパートでは与えられたテーマを元に、介護業界について考えるという内容です。
ワークショップで扱うテーマは複数ありますが、一例として以下の内容に取り組みます。
チームでアウトプットすることで曖昧な知識に気がつくことができる
テーマについて、まずは何も調べずに自分たちがすでに知っていることを元に仮説を話し合い、その後ネットで調べた情報やドメインエキスパートの方との会話を元に、介護を受けるためのフローを書き起こしていきます。
自分たちで手を動かしながら考えるため、単純に同じ量を座学で理解するよりもたくさんの気付きを得られるのがワークショップ型研修の良いところです。
この記事の冒頭に掲載したようなフローチャートを座学で学習する場合、ざっと見て「なんとなくこういう感じなのだな」と理解を止めてしまうことも多いでしょう。一方グループワークではチームに向けて自分の認識を共有しながらアウトプットしていく必要があるため、曖昧な部分を素通りすることはできません。
実際にワークショップを体験した際にも、「介護受けたいなら、たぶん最初は役所行っとく...よね?」といった会話からはじまり、なんとなく知っているけど、説明できない部分を1つ1つ明らかにすることで理解を深めていきました。

実際に介護の現場で長年働いてきたドメインエキスパートと一緒に学ぶ
このワークショップ型の研修の講師役は、実際に介護の現場で長年働いてきたドメインエキスパートの方たちです。
実際に自分たちでテーマに対して調べていくと色々と細かいところが気になってくるのですが、その際にはドメインエキスパートの方に気軽に質問してその場で疑問を解消することができました。
ドメインエキスパートの方は研修のときだけでなく、実際のプロジェクトでもお世話になっており*1、わからないことがあればSlackで気軽に確認したり、新しいエピックの開始時には、そのドメインの勉強会を実施いただいたりしています。
「ドメインエキスパートに気軽に質問できる環境」といっても、ほぼリモートかつ初対面だとなかなか質問しづらいものです。入社してすぐにドメインエキスパートの方と対面でコミュニケーションを取れる機会があることで、以降の開発時のコミュニケーションにおける安心感が違うと個人的には感じています。
実際に研修を受けてからプロジェクトに配属されてみて
実際に入社時研修を終えてプロジェクトに配属された際、当時チームが開発していた内容が研修に出てこないものだったため、(研修の理解度はばっちりだと思っていたこともあり)非常に焦った記憶があります。
ただしっかりと向き合ってみると、研修で培ったメンタルモデルをベースに、どの介護のパターンで、どこの業務で使うものかをスッと理解することができ、チームの開発にもスムーズに合流することができました。*2
おわりに
この後期高齢社会において介護業界に向き合うことは社会的意義のあることで、私もそこに共感して弊社に入社しました。
一方でエンジニアとして介護業界に向きあうことの魅力はそれだけではなく、この広く深い制度をどう理解し、保守性の高い実装に落とし込んでいくかを考える部分にもあると考えています。
今回はその理解を深めるための取り組みの1つとして、業界理解のためのワークショップ研修をご紹介しました。この記事の内容が介護業界に興味はあるけど、業界知識の不足に対して不安に思われている方の参考になれば嬉しいです!
カイポケ組織におけるドメイン知識の向き合い方について、以下の記事でも触れられているのでご覧いただければと思います。