はじめに
介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」のプロダクトマネージャーを担当している 田村 恵 です。 この記事では、介護業界における複雑な業務サイクルをシステム思考(Systems thinking; Wikipedia)を用いて新たな角度から捉えた試みについて紹介します。介護業界は、たくさんのステークホルダーと業務が複雑に絡みあうことにより、SaaSを提供するためのドメイン理解が非常にチャレンジングです。私たちは、ケアマネジャーの業務サイクルを視覚的に表現することで、業界(マーケット)の理解と業務に関するドメイン理解を深めることを目指しました。この記事では、その過程と成果について詳しく紹介させていただきます。
どんな方に読んでほしいか
この記事は、特に介護業界に関わるサービスの開発者、さらには介護業界に関心を持つ方々にとって有益な内容です。また、複雑な業界やドメインを視覚化し、より深い理解を目指すすべての方々にも、この試みからの学びがあると思います。
ケアマネジャーの複雑な業務サイクル
居宅介護支援事業所のケアマネジャーは、利用者のニーズに応じたケアプランの作成、実行、評価といった多岐にわたる業務を担います。私たちが作成した図は、これらの複雑な業務を視覚的に表現し、ケアマネジャーの役割と業務をより明確にすることを目的としています。この図では、以下の4つのサイクルが描かれています。
- 経営サイクル:法人や事業所の長期的な経営戦略と日々の運営を結びつける
- ケアマネジメントサイクル:利用者の生活の質を高めるための計画的なケアを提供し、サービス事業所による実際のサービス提供を評価する
- 月次サイクル(請求サイクル):サービス事業所によるサービスの提供から請求に至るまでの月次の流れ
- 日次サイクル:日々の利用者との接触、緊急時の対応など、日常業務の細部
これらのサイクルは、それぞれ独立しているように見えますが、実際には互いに影響を及ぼし合っています。そのため、この複雑性を理解し、適切に管理することは、効果的なケアマネジメントに不可欠です。
図作成のきっかけとプロセス
この図の作成は、チームメンバーの三浦がシステム思考での表現に長けていたことから始まりました。三浦のラフ案を基に、ドメインエキスパートでありプロダクトマネージャーの田村が、自身の経験や数多くの調査を通じて加筆し、図を仕上げていきました。このプロセスは、チームの多様な知見とスキルを組み合わせることで、より深い理解と表現を可能にしました。また、実際にこの領域でユーザー価値を提供する目的で、それぞれのイベントにおける業界特有の課題や理想についても追記し、プロダクト開発に生かしていきました。
ユーザー訪問によるブラッシュアップ
さらに、私たちはユーザー訪問を通じて介護業界の実態を掴み、図をブラッシュアップしていきました。実際の現場の声を聞くことで、図に反映された概念が実際の業務プロセスとどのように連動しているかをより深く理解することができました。このアプローチは、理論と実践のギャップを埋め、より現実に即した表現を可能にしました。
ステークホルダーの反応と機能開発への影響
ステークホルダーからのポジティブな反応は、私たちの努力が実を結んだ証です。イベント間の関連性や課題の可視化により、業界の理解が深まり、新しい機能開発に向けた具体的なアイデアが生まれました。私たちは、この図をベースに、次に開発する機能がどのイベントのペインに対する価値を提供するのかを意識しながら、よりターゲットを絞った機能開発を進めています。 また、この図はチーム内の全員がヘビーユースしていて、開発者同士の議論の場にもよく登場するほど大活躍のツールになっています。
まとめ
介護業界の複雑なサイクルをシステム思考で捉えることは、私たちに新たな視点を提供しました。チームの協働、ユーザー訪問による現場の声の反映、そしてステークホルダーとのコミュニケーションは、この取り組みを成功に導きました。 BtoB SaaSと聞くと、複雑そうだなという印象を持たれるかもしれませんが、今回の取り組みで少しでもBtoB SaaSの面白さを感じていただけたら嬉しいです。 今後もこのようなアプローチを活用し、介護業界のさらなる発展に寄与していきたいと考えています。