2020年3月、エス・エム・エスの開発チームではリモートワークへの移行に伴い、iPadアプリのリモート実機QA環境を構築しました。
限られた期間のなかで、MDM(Mobile Device Management: モバイル端末管理)選定から社内承認、端末の確保、iPadの設定、ポリシーの確認までスピーディーに進行。プロダクト開発部のリモートワーク開始前日には、安全に自宅から実機での検証をできる環境が整いました。
本記事では、リモートでの実機QA環境を構築するまでの経緯や背景にあるエス・エム・エスのカルチャーについて、取り組みの中心となったプロダクト開発部エンジニアの清水智徳さん、神谷典孝さんに話を聞きました。
リモートワークへの移行、新たなMDMの導入を即日決定
これまでプロダクト開発部では、iPadアプリの実機検証を行う際、社内ネットワークを経由して検証環境に接続していました。
しかし、新型コロナウィルス感染症の影響でリモートワークへの移行が決定。社外からも検証環境にアクセスできる環境を構築する必要がありました。QAチームで「カイポケ」の品質保証を担う清水さんは、決定後すぐさま構築に向けて動き出します。
清水:これまで使用していたMDMでは、リモートで安全に検証環境へ接続するための細やかな設定や管理に対応できませんでした。私はMDMについてそこまで知見があったわけではないので、まずは社内の詳しい人を探しました。
そこで上司から名前が挙がったのがカイポケのプロダクト設計・開発を担う神谷さん。iPadアプリの開発経験があり、MDMの知見も豊富でした。
清水さんの依頼を神谷さんは快諾、新たなMDMを選定しました。選定にあたって考慮したのは、大きく以下の2点です。
iPad OSのプラットフォームに特化しているか
OSの新しいバージョンに即日対応した実績があるか (カイポケのアプリは新しいOSが出たら即検証する必要があるため、スピード感を重視)
神谷さんが導入の申請を行うと、上司からは即日承認が得られました。
“誰にも気づかれない”くらい、地道で素早い環境構築
1日たらずでMDMの導入が決定する一方で、清水さんはiPadの確保に奔走していました。
ちょうどカイポケアプリの大型開発案件と時期が被っていたこともあり、社内で推奨されている世代の端末を揃えるのは容易でありません。
さらに、必要な端末を追加購入しようにも、新型コロナウィルス感染症の影響で生産が滞り、市場にもiPadが不足している状態。既存の端末や新規購入の端末だけで、必要数を確保するのは難しかったため、レンタル会社からも手配をしました。
レンタル会社の選定にあたっては、以下のポイントを確認しました。
レンタルされる端末の状態は良好か
他のレンタル会社と比較して値段は妥当か
決まった支払方法で支払えるか(エス・エム・エスとして購入などの費用決算方法が決まっているため)
さらにレンタル端末の利用にあたっては、以下のポイントを確認しました。
長期で使うものは購入、短期的に使用するものはレンタル会社といった線引き
レンタルした端末を社内接続するセキュリティ上の懸念、回避策
その他にも地道な検討があった一方で、購入やレンタルの理由は明確だったため、「上長からの予算承認などはとても迅速で助かりました」と振り返ります。
無事に合計15台ほどのiPadを確保した清水さん。続いて神谷さんとともに、各端末のキッティング・配布を進めていきます。
できる限り効率的にキッティングを進めるべく、事前に必要な初期設定や作業当日のシナリオを整理し、作業に取りかかりました。
神谷:キッティングについては、技術的に『こうやればいける』というイシューへの見立てができていたので、あとは実行に移すだけという感じで。VPN設定ファイルの構築などのセキュリティ周りも、インフラチームの協力を得られ、大変スムーズに進みました。
ただ、一台ずつ手をアルコール消毒しながら、iPadを開封し続けるのは楽な作業ではなかったです。さすがにiPadの箱を見てもワクワクしなくなりました。
キッティングが完了した後は、あらかじめ清水さんが策定した端末の管理ポリシーに沿って、必要なメンバーへ端末を配布していきました。
清水:個人情報保護や情報漏えい防止の観点から、メンバー間で個人の住所を教え合い、受け渡すのは禁止しようと、リスクマネジメント部門と話をしていました。
そのため、基本的には私が中継地点となって、宅配業者を手配し、配送を行いました。4月と5月合わせて、40台以上は受け渡しましたね。
こうした地道な取り組みの甲斐あって、大きなトラブルが発生することなく、迅速にリモート実機QA環境への移行が完了。他のメンバーにとっては「気づいたらできるようになっていたんじゃないですかね」と、清水さんは振り返ります。
現在リモートワークへ移行してからも二人の取り組みは続いています、神谷さんはApple Business Managerの仕組みを使用し、ゼロタッチで設定が完了するようシステムをアップグレード。清水さんも、受け渡しや端末購入の予算承認の仕組みを効率化できないか、引き続き検討を進めたいと考えているそうです。
学習への惜しまぬ投資、無駄ない意思決定プロセス
今回の取り組みを通して、神谷さんは「学習投資を惜しまないエス・エム・エスの良さ」を改めて感じた」と語ります。
MDMの導入に必要な知見は、2019年に会社の費用でWWDC(World Wide Developers Conference)に参加した際にインプットしたものもあったそうです。
神谷:エス・エム・エスでは業務時間外でも、カンファレンスの参加費用を負担してくれます。私も入社時に『海外のカンファレンスに参加したいです』と希望を伝え、WWDCに参加しました。
また、『参加したらレポート必須』といった決まりもありませんでした。そうした寛容な方針であっても、自ら『皆に知ってほしい』と発信するメンバーが多いですね。
学習を後押しするカルチャーと学習意欲の高いメンバーを挙げた神谷さん。加えて、清水さんは、MDM導入の決定や端末手配、配布に至るプロセスから、スピーディーな意思決定や部署を超えた連携の強さを感じたそうです。
清水:必要なことをロジカルに説明すれば、すぐに提案が承認されるのはエス・エム・エスの良さだと思います。個々人が裁量を持って動きやすい環境です。
また、上長はスピーディーかつ的確に、承認の可否や必要な検討箇所を指摘してくれる。個人の自由さと『抑えるべき部分は抑える』バランスが取れていると感じます。
また、他部署の人たちも協力的である点はとても心強かったですね。今回も神谷さんはもちろん、リスクマネジメント部門やセキュリティ部門の方も積極的に手助けしてくれました。
思いがけないきっかけから始まった今回の取り組み。その裏話からは、学習への投資を惜しまないエンジニアの技術力、無駄のない意思決定プロセス、個の挑戦を応援する組織カルチャーなどが伺えました。
今後もこうした良さを大切に育てながら、事業や社会の不測の変化にもしなやかに向き合っていきたいです。本取り組みを通じて、エス・エム・エスの魅力や社風が伝われば幸いです。